には、石亀《いしがめ》を用いた。石亀は、川虫の一種である。水際の小石の上をさらさらと流れる浅い瀬に、小砂を長さ一分五厘くらいの長さの筒にまとめて、その中に棲んでいる青灰色の細長い小虫である。これも、若鮎の好物である。これを鈎先にさしても、よく食いついた。魚釣る餌には、誰でも苦労するものだ。
後年、相州小田原の酒匂川へ遊んだとき、土地の釣り人が道楽に処女の髪の毛を用い、たなご鈎ほどの小さな鈎に、なにか餌をつけて浅瀬で若鮎を釣っているのを見た。頻繁に、釣れるのである。どんな餌かと、その釣り人に見せて貰ったところ、それは石亀であった。
石亀は、栃木県と茨城県にまたがる那珂川の釣り人も、若鮎釣りの餌に使っているという話だ。どこの釣り人も、同じ餌を発見するものと見える。
鰺《あじ》と※[#「魚+陸のつくり」、第3水準1−94−44]《むつ》の肉で、若鮎を釣るのを見たのも、小田原の山王川の上流であった。それは、明治の末年であったろう。
湯河原の千歳川でも、熱海の町を流れる小川でも、鰺の肉やシラスの頭で若鮎を釣っていた。それを、はじめて見たのは、まだ小田原から熱海へ人車鉄道が通っている頃だ。
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