石亀のこと
佐藤垢石

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)毛鈎《けばり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+陸のつくり」、第3水準1−94−44]
−−

 鮎は、毛鈎《けばり》や友鈎で掛けるばかりでなく、餌に食いつくのは、誰も知っている。
 私が少年のころ、父と共に利根川で用いていた毛鈎は、播州ものの甚だ粗末な出来であった。近年のように加賀鈎や土佐鈎のように精巧のものは、見たこともなかったのである。だから、毛鈎で若鮎を釣るのに、必ず餌をつけたものだ。
 最も広く用いられたのが、魚の蛆《うじ》であった。空鈎《からばり》を水中へ流しても釣れないが、蛆を餌につけると、よく釣れた。次に、藻蝦《もえび》の肉を餌に用いた。藻蝦のくびを取り去り、殻の上から二本の指先で押すと、肉が飛び出す。それを鈎へつけると、若鮎は争ってそれを食った。若鮎は、遠く河口から上流さして遡りくる途中、藻蝦を常食にしていたためかも知れない。
 蛆《うじ》も藻蝦《もえび》もないとき
次へ
全3ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング