小伜の釣り
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)陽《ひ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うぐい[#「うぐい」に傍点]
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 こうして私は、長い年月東西の国々を釣り歩いた。そして、五、六年前に、何十年ぶりかで故郷に帰り住むようになり、再び利根川の水に親しんだ。
 もう、長男が十二、三歳になっていた。私が、亡き父に伴われては河原の陽《ひ》に照らされていた年頃である。子供が次第に大きく育っていくのを見るのは、何事にもかえがたい。その子が、不出来であろうが、まずい顔をしていようが、まず息災《そくさい》にすくすくと伸びていくさまを見るほど、心安さはないのである。子供を育てるのは畢生《ひっせい》の大事業だ。そして、それに天恵の快興が伴う。
 わが父も幼き私を、楢林の若葉のかげに、末たのもしく見たのかも知れない。
 私の長男も、私と同じように釣りが好きのようである。かつて、この子が五、六歳の頃、私は奥利根川沼田地先の鷺石橋の下流へ、山女魚《やまめ》釣りに連れて行ったことがあるが、それから一度も川へ伴ったことがなかった。けれど、
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