かった。酒を飲んで石に及ぶと雖《いえど》も、水をもって沙《すな》を濯《そそ》ぐが如き者であったというのであるから、浴びるほど飲んでいたのであろう。
 一同顔が揃うと宴席に勅令が降《くだ》った。大杯の内側に墨で線を描き、増さず減ぜず深浅平均。これを二十杯ずつ回し飲みにして、雄を称せよ、という御意であったのである。そこで、諸豪は何れも口を任せ、競うて呷《あお》りつけた。ついに大杯が、一座を六、七巡に及んだ。すると、大いに酩酊した。東西も分からず、ふらふらとなってしまった。そのうち一番ひどかったのは平希也で門外に潰《つぶ》れて動けなくなった。次に降参したのは藤原仲平で、殿上に小間物屋開店に及んだ。他の連中にも我にして我にあらず、泥之泥也。
 中には、舌が縺《もつ》れて口がまわらず、鳥が囀るような声を出すのもある。藤原経邦の如きに至っては、はじめ快飲を示していたけれど、とうとう心身共に蓬《ほお》けてしまい、げろを吐いて窮声喧々という有様だ。ところが、この厳しい合戦にわずかに態を乱さなかったのは藤原伊衡一人で、法皇からご賞詞があり、褒美として駿馬一頭を賜わった。けれど、御意の二十杯には達せず、そ
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