こへ行った行った、と呼ぶのだ。二番から三番の大妖へ蜂を受け渡し、最後の痘鳴が眼を皿のようにして空に飛ぶ小さな一塊の真綿を迎えるのだ。そして見送って、蜂が何処へ飛び込んだか見定めるのだ。
 痘鳴は、とうとう蜂の飛び込んだ芒原を突きとめた。あったあった、と狂喜の叫びをあげる。一同、そこへ走りよって見ると、芒原が日向《ひなた》に面して緩く傾斜になっているところに、蜂の穴があった。その穴を出入りする幾百匹とも知れない親蜂の数を見て斜酣は、これはなかなかの大物に違いない。迂闊《うかつ》には、手は出せない、と言って腕組みするのである。
 ややあって驚いたことに斜酣は、上着を脱ぎワイシャツを取り、ズボンから股引まで脱いでズロース一つの丸裸になってしまった。そして、上着のポケットから一つの紙包みを出したのである。これは、昨夜こしらえて置いた火薬だ。硫黄、硝石、桐炭。これを細く砕いて調合すると、火薬ができる。この火薬を蜂の口で燃やして、その煙を穴の中深く吹き込めば、いるだけの蜂が悉く眼をまわす。だが、その眼をまわす時間はほんの五、六分だから、電光石火の速力で穴の奥から巣を掘り出さなければならない。
 で
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