切り離した。そして、その蛇の輪切りを二尺ばかりの細い篠の棒にさして、私ら銘々に持たせたのである。そこで斜酣が説明するに、一体地蜂の親を誘惑するには生きている動物の肉でなければいけないのだが、就中《なかんずく》赤蛙の活肉が歓迎される。だが、蛙はもう土の底へ潜ってしまったものか、きょうは見つからない。やむを得ず代用品として、山かがしをとっちめた訳だ。
 これからいよいよ、地蜂の巣を捜しに行く段取りとなるのだけれど、ここで一応諸君に承知していて貰いたいことがある。そもそも地蜂の巣を捜すにはまず親蜂の散歩しているところを発見しなければならない。親蜂は、巣にいる子供に餌を運ぶため朝から晩まで、終日野や林のなかを翔《か》けめぐっている。蜂は蟻のように団体行動をとらないで、どんなおいしい餌を発見しても単身で働いているものだ。地蜂の親は甚だ小型でからだ全体が青灰色を呈し、腹から尻にかけラグビーの襯衣《はだぎ》のような横縞がある。だから、縞蜂とも言っている。穴蜂ともいう。
 その地蜂を見つけたら、棒にさした蛇の肉を蜂の前へ差し出すと、蜂は直ぐ肉につかまって、あの鋭い歯で稗粒《ひえつぶ》ほどの大きさに肉を
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