まことに純潔である。これを食っている鮎は、丸々とそして肉が締まって育って、さらさらと流れる小石底に脚を埋め、沖の岩礁に鮎群を制する興趣は、他に類を求めることができぬ。
また、野州の那須の山奥から出て湊の海門橋で海水と混じる那珂川にも、今年は大そう鮎が多い。中流の長倉、野口、阿波山、上流の烏山、黒羽まで、六月上旬から友釣りの快味を土地の人々が満喫していた。鮎の質は、久慈川ほどのこともないが、数が漁れるので人気を集めている。しかし、支流荒川の大鮎は姿は素敵に見事である。その味と共に、世に推賞してよろしいと思う。
五
流れは小さいが、昨年頃から東京の釣り人の注目を惹《ひ》いている川がある。それは、紺碧の芦の湖から出て、翠緑の箱根を奔下してくる早川である。早川村、板橋、風祭、入生田と次第に上流へ遡るほど水の姿は複雑を加う。しかも割合に鮎の形は大きく、数が多い。浴客がゆかた掛けに麗人を具して釣りする姿を見るは、早川のみにある風景である。
酒匂川も捨て難い。二宮尊徳翁の故郷、栢山村を中心として釣りめぐれば殊のほか足場がよろしいのである。この川もまた震災後はじめての大遡上であると、沿
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