大きく育つ。五、六十匁から八十匁の姿となるが、胴が丸く肉が締まり骨はやわらかである。水が冷えれば冷えるほど、頭と骨がやわらかになる。秋の出水が上流の簗《やな》の簀《す》に白泡を立て、注ぎ去れば跡に大きな子持ち鮎が躍っている。その頃は、冷え冷えと流水が足にしむのであるが、鮎の骨は一層やわらかである。秋鮎の骨は、棄てるものではない。
 山女魚《やまめ》も、水温の低い渓流に棲んでいるものほど、骨がやわらかである。奥多摩川でも奥利根川でも、暑中水温の割合に高い中流に棲んでいる山女魚を見るが、これは骨が何となく舌に触わるのである。
 嶺の紅葉を波頭にのせて、奥山から流れる渓水と共に、里近い川へ出てくる秋の山女魚を木の葉山女魚というが、これは殊のほか骨がやわらかい。そして、食味もすぐれている。それは、渓川の水が次第に冷えてきたからである。
 産卵後間もない夏のうぐいは、肉に一種の臭みを持ち、骨が硬いために到底食膳にのせ得ないのであるが、秋水に泳ぐ頃となれば見返すほどの食味となる。鰍《かじか》の骨と肉も、水温と密接の関係を持つ。
 鰍の族が三、四十種あるうち、海近い河口に棲むダボ鯊《はぜ》に似た鰍は
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