田用水の落ち尻か、川敷からわき出た水ばかりである。昔とは、全く水の質を異にするようになったのである。何で食味を誇るに足る上等の鮎が得られよう。
それでもまだ東京の人々は、多摩川の鮎を日本一なりと主張して譲らない。
久慈川沿岸の人にいわせれば、久慈川の鮎を日本一なりと誇り、富士川沿岸へ行けば富士川の鮎は絶品なりと自慢する土地の人は、そのよってきたる理由を知らないのであるが、筆者から見れば決して無稽なことをいっているのではないと説明できるのである。即ち、久慈川の上流一帯は鮎の最も好む阿武隈古生層が地表に露出して、水質まことに清らかにまた水垢がいかにもおいしそうに川底の石の表を塗りこめている。富士川も峡中を流れる笛吹、釜無の二支流こそ花崗岩に満たされているが、この二支流を合わせた鰍沢から下流一帯と支流の早川は、日本でも最も古い水成岩の転石が川底を埋めているから、そこに発生する水垢が悪かろうはずがない。鮎の質が上等で、香気が高い所以《ゆえん》である。
人間の舌の発達は測り知れない。いろいろの方面に趣味を求めて進んでいく。そこで食品の特質に興味を持つ人は、水温と魚の骨の硬軟に微妙な関係のあ
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