火を焚いて穴のなかへ煙を送り込みました。熊は煙にむせると、穴から飛び出すものです。私は穴から四、五尺はなれて鉄砲を構えて待っていた。
 矢庭《やにわ》に、穴の入口に顔を出した。大物です。四十貫もある巨熊です。私は、熊の額へ銃口を押しつけるようにして、引金を引いた。ところが、不運にも不発なのです。
 私は二連銃は使いません。二連銃ならば続いて撃てたのでしょうが、私のように崖を這い岩をよじ登る猟人であると鉄の薄い二連銃では銃口が傷ついて使えなくなるので常に単発ばかり用いていました。
 熊は穴から飛びだし、後脚で立って前脚で私につかみかかろうと、疾風のように向かってきました。なにしろ熊と私との間隔が僅かに三、四尺、五間か、十間も離れているのなら、弾を詰めかえる余裕もあるのですが、僅かに三、四尺の間隔では、どうすることもできません。
 この巨熊に体当たりを喰えば、ひと堪りもない。私のからだなど、八つ裂きにされてしまいます。私は突嗟の間に、一歩身をかわしました。私に身をかわされたので、熊は肩すかしでも喰ったように、僅かに前脚の掌が私の腕の筒袖に触れただけで、前の方へ突っ走りました。それは間髪を容
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