。仮に一頭三十貫の熊を撃ったとすると皮と骨と腸を去って、肉だけにすると十五貫になります。十五貫の肉を百匁百円で売ったとすると、肉だけで一万五千円になります。
 胆嚢は、三十貫の熊であるとすると百匁ほどあります。生胆は平均一匁百円で売りますから一万になります。先日、大阪の薬屋から、乾燥した胆嚢を一匁六百円で買いたいといってきました。
 毛皮は、三十貫のものならば畳二枚程の大きさがあります。私はこの程度の皮ならば五、六千円から、一万円近くで売ります。そんな次第で、三十貫の熊を一頭撃つと、三万円以上になります。なかなか馬鹿にしてはいられません。一所懸命です。命を的に、熊を追うのですから、三万円位では安いではありませんか。
 私は自分で皮を剥ぎ、腹を割いて肉を取ります。幾頭も熊の腹を割いてみて、驚くべき事実を発見しました。
 それは、熊の陰茎には骨が入っていることです。軟骨ではありません。普通の硬い骨です。太さは竹の箸ほどで、長さは三寸ほどです。これが、ほんとうの鉄筋入りというのでありましょう。
 平素は、鉄筋と共に陰茎を下腹のなかへ入れて置きます。
 熊の陰茎で想いだしたのですが、犬の陰茎にも筋金が入っています。やはり、硬い骨で長さは三寸ほどあります。犬の交尾の時間を計ってみましたが、一番長いので四十七分でありました。犬の親戚である狸の陰茎にも筋金が入っております。大体、犬科の動物の陰茎には筋金が入っているものです。
 狐は随分夫婦仲がよい動物ですが、この陰茎には骨が入っておりません。猫も虎も、その陰茎には筋金が入っていません。
 ある動物学者にきいた話ですが、動物のうち人間のように相手と正面に向き合って性行為を営むものは、鯨と象だけであるそうです、春の情を催してくると、まず雌の象は、土に穴を掘ります。背を埋め得るだけの穴です。穴を掘り終わると、雌はその穴に背中を埋め、体を動かぬようにして空向きになり、雄の来るのを待つのであるそうです。
 熊の皮のなめし料金は、米子付近で十貫目のものが五、六百円、三十貫のもので千円、四十貫の熊ですと千五百円の相場です。
 信州のこの地方の深山には、猿も羚羊《かもしか》も数多くおります。羚羊は禁獣ですから私は撃ちません。猿は十五、六頭から、三十頭くらいの群れをしています。猿の肉の味は獣類の肉のうちの王さまであります。
 つまらぬ話で、長い間お耳をけがして、まことに申しわけありませんでした。



底本:「『たぬき汁』以後」つり人ノベルズ、つり人社
   1993(平成5)年8月20日第1刷発行
※<>で示された編集部注は除きました。
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2006年12月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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