ところで昔、大口が谷中《やなか》の方で開いていたという薬屋の店はどうなったろう。
中
大口喜六の質問に答えるので、米内首相が登壇した。米内光政の写真を見ると、護謨《ごむ》人形のような感じがするが、きょうの答弁には何となく弾力がない。それに、国民に対してもっと親切があるのと、もっと決然たるところがあっていいと思う。
あんなぐあいでも、国民の期待に添えるのかと思えるのであるけど、重臣共の眼から見れば、米内は内懐に何か持っているのかも知れないのだ。しかし、男振りはいい。重臣はああいう見目よい男がお好きなのかも知れないと考えた。
その次に登壇したのは、藤原銀次郎である。藤原の、からだのこなしにはどこか瓢逸《ひょういつ》のところがある。答弁の句切り句切りに、ひょこひょことお辞儀するのだ。そして最後に、他の所管のことはそれぞれの大臣に答弁させる、などと脱線したのは、内閣を紙会社と心得ているのかも知れない。ひどく、ご愛敬である。自分の席へ帰って行くのに足取りが、ちょこまかと、なんとなく活動役者の高勢実乗に似ている。そんな風な男から、日本の経済国策が生まれてくるのだ。
二、三
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