二千頭前後である。その中の三分の一の七百余頭がこの金華山沖で捕れるのだから、まず日本一の漁場は金華山沖ということになる。
この漁場には抹香鯨と、鰮《いわし》鯨が一番多い。鰮鯨は五十尺程度のもので、一頭三、四千円の値打ちで大したものではないが、こいつの肉は素敵においしい。自分たちは、その肉を毎日食っている――
昼食の用意ができました、と給仕が知らせてきた。
食堂へ行ってみると、これは驚いた。あらくれ男が乗っている捕鯨船には大したご馳走はあるまい、と考えてきたのだが、この卓上には真鯛の塩焼き、鯛のうしお、野菜サラダに新菊のごまあえ、それに、鯨肉の刺身である。
もう一つ、卓上を飾ったものは、冷たい麦酒の壜だ。
三
鯨の刺身を食うのは、はじめてである。まず、これに箸をつけて口へ持っていった。肉の艶は緋牡丹色で牛肉の霜降りのように脂肪の層が薄く出ている。それを噛むと牛肉のような硬さがない。そして、鮪《まぐろ》のとろのように口中に絡まる脂肪のあくどさがない。あっさりと舌端にとけてしまう。
おいしい。牛肉と、鮪の味の中間にあるものだ。かつて食べた缶詰にも、晒し鯨にもこんな上
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