《にわか》や肥料をとるために鯨の肉を細かく刻んで、庭や路に乾して置くがそれが腐って、こんな臭いを発する。
 それがために、あの臭いものなら何にでも集まってくる蝿でさえ、あまりにその臭いの強烈なのに驚いて、この鮎川の町から悉《ことごと》く逃げ出してしまった。けれど、いきのいい鯨肉は、こんなに臭いものではない。

     二

 それで安心した。
 その夜半十二時、私らは第二京丸というキャッチャーボートに乗って鮎川港から金華山沖へ出た。三百二十トン、軽快な船である。
 眼がさめると、朝七時。船は金華山から百二十五|哩《マイル》の太平洋を走っている。洋上一面の濃霧で、三、四町先も見えないくらいだ。展望がきかないから鯨はおろか鴎《かもめ》さえ見えないのだ。
 霧の流れる船橋に集まって、船長から鯨の話を聞く。
 鯨には抹香《まっこう》鯨、槌《つち》鯨、つばな鯨、白鯨、ごんどう鯨、白長鬚鯨、長鬚鯨、鰮《いわし》鯨、座頭鯨、背美《せみ》鯨、北極鯨、小形鰮鯨など大分変わった種類があり、すなめり[#「すなめり」に傍点]、いるか[#「いるか」に傍点]、さかまた[#「さかまた」に傍点]などがその親戚になっ
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