蚯蚓《みみず》もいいが、寒鮒にはボッタが断然成績がよろしい。ボッタというのはボウフラの一種である。潮の影響のある流れでは、イトメやゴカイを使うのである。ボッタを用いる時は小型の鈎がよく、蚯蚓の時はそれほど小さな鈎でなくてよろしい。とにかく鈎の大小は好みであるから、自分でやってみて具合のいいのを使うものである。
 寒鮒はどこでも釣れるというわけではない。昔から場所が定まっている。それは、厳冬になって川底の条件が永い間鮒が落ち込んで棲みつくのに適しているためであろうと思う。
 東京近くでは中川の潮止橋の下流大場川の合流点付近、荒川の支流芝川、江戸川今井橋の上手、多摩川の矢口の渡しの下手など、釣り人のよく知っているところである。少し遠くはあるが、近年発見された場所で人気のあるのが、渡良瀬川の新古河三国橋上下、新利根川下流幸田橋上下、水郷上の島、狢塚、戸指川などである。ここらは、鮒の形がなかなかいい。時々尺鮒が出る。
 寒鮒はおいしい。糸作りの膾《なます》にして黄身酢で食べれば素敵である。



底本:「垢石釣り随筆」つり人ノベルズ、つり人社
   1992(平成4)年9月10日第1刷発行
底本の親本:「釣随筆」市民文庫、河出書房
   1951(昭和26)年8月発行
初出:「釣りの本」改造社
   1938(昭和13)年発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年7月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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