見えなくなったという話を聞いて、淋しく思っていたのであるが、我が家の前にもみやこ鳥がいるとは、懐かしい。
 このほど、この屋根に一羽のかもめが死んでいた。では、改めて前の石垣の傍らに『みやこ鳥の塚』でも建ててやりましょうか――。
 あら、昔とった杵柄《きねづか》に、都鳥の一曲ですって、冗談じゃありませんよ。こんなお婆ちゃんの声、面白くもない。
 老女将と老妓とは、朗らかに笑うのであった。
 もう、ゆりかもめの季節が去った晩春の夜の大川は、上げ潮どきの小波をひたひたと石垣に寄せ、なごやかに更けてゆくのであった。[#地付き](十三・五・六)



底本:「完本 たぬき汁」つり人ノベルズ、つり人社
   1993(平成5)年2月10日第1刷発行
底本の親本:「随筆たぬき汁」白鴎社
   1953(昭和28)年10月発行
※<>で示された編集部注は除きました。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年4月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボラン
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