たとすれば、次の年の役人は九千五百両で仕上げ、その次の役人は九千両に節約して、宮中の費用を縮めるのを手柄とした。そして、この功により食祿の加増や、栄転を目的にしたのであった。
 そうでない奴は、買物の中からカスリを取ろうとした。その手段は、買入の品物の品質を落として値段の鞘を取った。

     待宵の鱠《なます》

『本途値段』は元来、安永時代の相場で作ったのであるから、それから何年かたつに從い何れの品物も、本途値段と隔たりが生まれてくるのは当然である。その上、役人が商人との間に立って鞘を取ったのであるから、宮中へ納める品々の質が下落するのは論ずるまでもない。禁裡がいやが上にも窮乏に陥った。
 されば、主上に供え奉るご正膳も、ご副膳も次第にご質素となり、ついにはお食物のなかへ申すも畏いことであるがお口にすることのできない品さえ、一つや二つ混じったのであった。そこで、御膳方吟味役は、主上におものを奉るに当たって魚類、野菜の新しいか、古いかを鑑定した上で、『これは召しあがれます』、『これは召しあがれません』と、一つ一つ印をつけて、奉献したのであった。主上はその印をご覧の上で、お箸を取らせ
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