てきた狸を、木挽町の去る割烹《かっぽう》店へ提げ込んだ。そこの主人が、料理に秘術を尽くすということであった。
酒友数人のほかに、所謂《いわゆる》食通と称する人物と、東京で代表的な料理人といわれる連中四、五人を集め、狸公を味覚の上にのせることにした。まず第一に出たのが肉だんごだ。これは狸肉を細かく挽《ひ》いてだんごに丸め、胡椒《こしょう》と調味料を入れて軽く焼いたのであるそうだ。なかなかいける。臭みがない。
次は、肉を刻み油でいため、蕃荷菜《はくか》をかけたものだ。これも、乙である。その次は、テキである。これは硬くて歯が徹《とお》らなかった。カツも出たが、カツも同様だ。さらに、清羮《せいこう》に種とし、人参、大根、青豆などを加役とした椀が運ばれた。しかしこれは随分手数が掛かったものであろうが、あまり臭いので敬遠せざるを得なかった。
その次は、肉片をいったん湯であおり、これにマヨネーズと酢をかけ、それに蕃菜《つるな》の葉と馬鈴薯とをあしらえ、掻きまわしたものが出たけれど、これにも臭みがついている上に、肉が甚だ硬かった。最後に膳の上にのったのが、味噌汁である。八丁味噌に充分調味を加え、
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