も見なかった、人のよいエリスの面影が私の目に浮びました。
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   いさかい

 門を静かに開けて、敷石を踏んで玄関にかかると、左は勝手へ行く道、右の荒い四つ目垣の中は花畑ですが、すがれ時《どき》で目に附く花はありません。格子戸《こうしど》の中では女中が掃除をしていました。
 ふと早口の甲高《かんだか》い声と、静かな諭《さと》すような声が聞えます。こんなことがあるとは聞いていましたが、今が初耳でした。立って行こうとする女中を、手を振って止めて、「用事があって来たのではないのだから、取次がないで下さい」と小声でいうと、女中も心得たもので、そのままそこにいました。足音を忍ばせて門を出るまで、声はまだ聞えていたようでした。
 門前は人通りもあり、車も往来しています。今そんな道を歩く気はしないので、すぐ向いの小路に這入《はい》りました。そこらの屋敷町をうねりうねり行って、薔薇新《ばらしん》の前を通ります。あまり人通りはありません。
 歩きながら考えました。何のことか知りませんが、私にはただお兄様がお気の毒でなりませんかった。今日は土曜日ですから、昼前はお役所でしたろう。夜はまたき
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