われるが、角背は多くの場合裏打を固くしてその特長を強化する。その折れ目、耳を立てたのを角山という。角背の腔背は耐久力に難点がある。余程優秀な技術が要る。角背の、特に硬直背は釘とじ式のものに適応するわけである。(釘とじは、針金などの金属が腐るのを避けて麻糸等によるものがある。之は針金とじというよりも、やはり総称である打抜き綴じという風がいいわけ)角背を俗に南京(ナンキン)と呼ぶ。角背は保全上と開きの点に難があるが、視形としてはキッカリとした角形を成すので、そういった好みには適合する。
連結の法に、も一つの方法がある。突着け綴附というので、表紙の平(ヒラ)と背との間の仕切り押のないもの、背からすぐ平へ移行する方式、表紙をミミの根までつき込んで連絡するのである。之は仕切り押を忌む様な平から背まで続いた装飾などある場合には此の法によるより外ないが、一寸締りのない様な感じである。場合によってはこの装飾の関係がなくとも用いて良果がある。又之と同様の外容となるものだが、一枚の芯紙をのべて貼附けたものなどもある。小形の聖書などにみるあれである。
以上で大体装綴様式を略述したことになるが、各々その工程形態によって、性質があるから、装案者はそれを味識して配慮することが必要である。書の品格、仮りに書格といおうなら、その書格を構成する分子としてその綴装様式は重大な役割りをもつものである。例えば背皮を採り乍ら、打抜き綴じなどにするが如きは、やむを得ない場合は致し方なしとして、全く以てちゃちである。又丸背の強いものに対して余り直線的な感じの文様を附するが如きである。
さてそこで現在の日本の出版物をみてみる。色とりどり姿さまざまである。全く雑然たる風俗図である。これ即ち現代日本を反映するものと云えばそれまでであるがも少し何とかおちついた流れを成さないものか、誠に書店店頭に立ってみるならば、この感はそぞろに深いものがある。
底本:「日本の名随筆 別巻87 装丁」作品社
1998(平成10)年5月25日第1刷発行
底本の親本:「恩地孝四郎装幀美術論集 装本の使命」阿部出版
1992(平成4)年2月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年1月18日作成
青空文庫作成ファイル:
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