もある。所蔵装幀に対して一層懇切な刊行である。が之は、余り頁数の多いものや、ザツなものには余り見かけない。日本では二三あったかないかの寡少な方法である。
略装は、簡略な装本態であって、日本の所謂フランス装などは当然この部類に入るわけであるが、余り費用をかけず、しかも綴本として纏《まとま》ったものとするための方式である。この様式では、しばしば釘綴じが行われる。糸でかがり合せるのでなく、針金で綴じるのであるが、ぞんざいなやり方の場合は、釘を表裏から打ちつけて固定する。名の通りの釘とじもある。正しく云えば釘とじと針金とじに分つべきだ。この方式では、表紙は大抵紙が用いられる。本の小口は切り整えられている場合が多い。むろん気取った場合はアンカットのも少なくない。表紙と中味の連絡は、中身の縢《かが》り糸で表紙に膠着《こうちゃく》され、その上を見返し紙が抑える。ぞんざいなのは背と峰に貼付けただけのもある。之は表紙の紙が切れて放れ易い。釘とじのものは背に布、寒冷|紗《しゃ》などを膠着、それが糸の代りをつとめる。略したのは、見返しで中身と表紙とを貼り結ぶ。之は見返し紙が余程丈夫でないと見返しの折目が切れて中身が離脱して了う。ヨタ本形態である。略装は近頃本を安く作る必用上、よく採用されている。が、どうも安物をつくる心得で出版者も工作者もやっつけるのでいい味のものが尠くなる。気軽で親しみ易く又読むにも軽量で扱いいい、心易い様式、好もしい姿であるのに、そうした心組で、ガラクタ本にして了う場合が多いことは遺憾である。この仮装略装本を非常に愛着して、この方式の上にいい本を作りたいといつも願っているが、前述のような事情で失望しがちである。だがこの形式は将来十分発展性のあるものと考える。愛書家も徒《いたずら》に華装ばかりを尊重したがらずに、こうした所に平明直截な美を打ち立てることに留意してほしい。
本装は、まず本らしい。本として一人前な、制服をつけたといった所の様式である。略装の紙表紙がボール貼りに代ったものといっていい。このボールは、厚薄によって、本の味が大変違って来る。薄手のものか例えばマニラボール、芯地など用いたものは、略装の味に近くなり、心易さが増して来るし、翻読にもおっくうな気持が来ない。ポケット辞書類が大抵この薄表紙であるのはその間の性質の自然な利用である。又その逆に極端に厚いものもある。これは併し稀な例であって、特殊な好みの外は用いられぬ。板のようにどっしり堅固な感のほしい時には適当である。此の場合、ボール紙の三方に鉋《かんな》をかけて斜に落とす所謂面をとるのが普通であって、その仕上りは一つの稜を増すわけであるから、重厚であり複雑な味を附加される。又この稜を厭うてカマボコ形に円味でおとす場合もある。これは敦厚《とんこう》な感じである。これと似たのはボールと被装物との間にやわらを入れて、つまり綿入れ着物のような柔い盛り上がりをやるものがある。この種のものは日本では、大形の写真貼[#「写真貼」はママ]などの外は刊行本には殆どない。近刊拙著詩文集はその方式でやることになっている。本装になると背が一つの重要な働きをもって来る。綴じつけにいろいろな種別が出来て来るからである。これは二大別して、綴じつけと、貼りつけの二種になる。Binding と Casing とであって、「とじつけ」と「くるみ」である。とじつけは、表紙の板紙へ綴り糸を固着して後に装表の材料を被せ装飾する。一般に所蔵本の丁寧なものに用いるもので古くは此の法によったもので堅固の点では遥に後者を凌ぐものである。「くるみ」の方は表紙と中身とは別々に仕上がって、それが繋ぎ糸で連結されるもの、今日の大部分の刊行本が拠っている方法であって操作の簡単なことを長所とするが堅牢の点は前者にはるかに劣るものである。その連結法の差異の外に、も一つ背の別様を述べる必要がある。それは背の形と、背が浮いているか、密着しているかである。浮いているのは腔背であって、本の開きが、らくである代りによい技術でないとすぐにふらふらになる。刊行本には最も一般的に見る方式。膠着しているのは丈夫な点はいいが、その硬いもの、硬直背(Tight Back)のものは開きが窮屈である。それを避けるために軟撓《なんとう》骨(Flexible B.)がある。これは開きがずっとらくである。が、背に箔など入れてある場合離脱したり、皺が寄ったりして、美術的なものには不可である。形の上から見ると丸形と角形になる。丸背には、大山(強孤形)、中山(緩孤形)それと、角丸(かまぼこ形)とある。普通見る丸背は前二者であって、角丸は、技術の未熟のために余り日本では少ないが西洋本は多くがこれである。本の品もこれが最上である。角背は、背が平面なのでフラットバックと云
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