は一層美しい花を見たいと思つて居る。独立自恃の精神のあるものは容易に他の援助や庇護を希はない。しかし援助を与へて庇護を加へらるべき第一の資格は此の独立自恃の精神の存在である。一昨年以来菊が私に示した悲壮な態度、その元気の頼もしさに私も心から栽培を促されるのである。同情や援助といふものは求めても無暗に与へられるものではない。猥りに左様いふものを求めざる人こそ与へらるべきであるのだ。
 それから又、いよ/\菊の苗を分けようとするときに、如何なる苗を選ぶべきであらうか。勿論吾々は最も有望な苗を選ばなければならぬ。一株の古根からは幾十本となく若い芽が吹き出して居る。それが一様に生気に満ちたもののやうに見える。しかし経験のある栽培家は思ひもかけぬほど遠い所へ顔を出して居る芽を択ぶのである。親木のわきに在る芽はどうしても弱い。よくよく自分の活力に自信のあるのが親木をたよらずに遠くまで行く、其意気を栽培家は壮なりとするのである。私も今年は勿論そのつもりである。
 世に云ひ古された、「今日になりて菊作らうと思ひけり」といふ俳句、是は格別文学的でもないかもしれぬが、秋を迎へてから他人の作つた菊の花を見て
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