史傳口碑」に丸傍点］ハ日本人ノ間ニハ存スル事無キモ、「アイヌ」ノ間ニハ諸部落ニ於テ幾分カ宛存ス。是ガ總括ノ要點ヲ擧グレバ次ノ如シ。昔「アイヌ」ノ日本々州ヨリ北海道ノ地ニ移リ來リシヤ、此地ハ决シテ無人ノ境ニハアラザリシナリ。「アイヌ」ニ先チテ此地ニ鬚髯無キ人民棲息セリ。彼等ノ住居ハ竪穴ニシテ屋根ハ主トシテ蕗ノ葉ヲ以テ葺ケリ。彼等ハ石製ノ利器、土製ノ鍋椀ヲ使用セリ。彼等ハ始メ「アイヌ」ト平和ノ交際ヲ爲シ物品交換ヲ行ヒ居リシガ、後十勝ノ地ニ於テ爭ヒヲ生ジ、「アイヌ」ニ接近シテ住スルヲ厭ヒ、同類相卒ヒ漸次北ノ方ニ移リ往ケリ。彼等ハ一種輕キ物質ヲ以テ造レル舟ヲ有シ、陸上ニテハ之ヲ荷ヒテ歩ミ、水上ニテハ之ヲ浮ベテ乘レリ。「アイヌ」女子ノ入レ墨ハ彼等ノ女子ノ風ヲ學ビタルナリ。
○北海道先住者ノ稱呼［＃「北海道先住者ノ稱呼」に丸傍点］ニ付キテハ「アイヌ」ノ與ヘタル綽名ノ他知ルニ由無シ。「アイヌ」ハ先住者ヲ呼ブニ種々ノ名ヲ以テセリ。就中記憶シ易ク發音シ易キハ「コロボックル」ト云フ稱ナリ。「アイヌ」語ニテ蕗ノ下ノ人ノ義。蕗ノ葉ヲ以テ屋根ヲ葺キタルガ故ニ此名有リ。（本州居住ノ者モ假ニ此名ヲ以テ呼ブ可シ。）
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