を截るにも石を研ぐにも多少《たせう》の水を要すべし。石斧製造《いしおのせいざう》に必要《ひつえう》なる砂及び水は各々《おの/\》適宜《てきたう》なる大さの土器中に貯《たくは》へられしものと想像《さうざう》せらる。[#地から2字上げ](續出)
[#改段]
●コロボックル風俗考 第七回(挿圖參看)
[#地から1字上げ]理學士 坪井正五郎
●利器以外の石器
石器とは石を以て作《つく》りたる道具《だうぐ》の總稱《そうせう》なるが、其中にて刄の付《つ》きたる分、即ち石製の利器の事は、打製類《だせいるゐ》も磨製類《ませいるゐ》も大畧記し終《おは》りたるを以て、是より刄物《はもの》ならざる石器の事を述ぶ可し。是等の中にて主要《しゆえう》なるは左の數種《すうしゆ》なり。
[#ここから改行天付き、折り返して4字下げ]
(第一)石を棒形《ぼうがた》に截取《きりと》り摩《す》り※[#「冫+咸」、81−下−8]《へ》らしたる者。(之を石棒と呼ぶ)
(第二)糸を掛ける爲と思はるる溝《みぞ》の有る石。(之を糸掛け石と呼ぶ)
(第三)扁平石の周圍《しうゐ》相對《あひたい》する所に缺損《けつそん》ある者。(之を錘り石と呼ぶ)
(第四)質《しつ》の粗《あら》き丸石にして凹所《おうしよ》を有する者。(之を凹み石と呼ぶ)
(第五)皿《さら》或は箕《み》の如き形《かたち》にして長徑一尺許の者。(之を石皿と呼ぶ)
[#ここで字下げ終わり]
●石棒
石棒に粗製のものと精製《せい/\》のものとの二|種《しゆ》有り、長さは共《とも》に二三尺の間を常《つね》とすれど、粗製《そせい》の方は太《ふと》くして精製《せい/\》の方は細し。圖中上に畫《ゑが》きしは、第一種、下《しも》に畫きしは第二種の石棒《いしばう》なり。粗製石棒《そせいいしばう》には兩端に玉《たま》無きもの、一端に玉《たま》有るもの、兩端に玉有るものの別《べつ》有れど、精製《せい/\》石棒は兩端に玉有るを以《もつ》て定則《じやうそく》と爲すが如し。精製石棒《せい/\いしばう》の玉の部には徃々|美麗《びれい》なる彫刻を施《ほどこ》せしもの有《あ》り。石棒なるものは抑|何《なん》の用に供《きやう》せしものか、諸説《しよせつ》有りと雖も何れも堅固《けんご》なる根據《こんきよ》を有せず。余は只粗製石棒中の或《あ》る者はメキシコに於《お》ける石棒《いしばう》と等《ひと》しく、石製の臺上《だいじやう》に横たへ轉《ころ》ばして餅《もち》の類を延すに用ゐられしなるべく、精製石棒中《せい/\いしばうちう》の或る者はニウジーランドに於ける精巧《せいこう》なる石噐の如く、酋長抔の位階の標《しる》しとして用ゐられしなるべしと思惟《しゐ》するのみ。彼《かの》石棒を以《もつ》て古史に所謂《いはゆる》イシツツイなりと爲すが如《ごと》きは遺物|發見《はつけん》の状况に重みを置《お》かざる人の説《せつ》にして、苟も石器時代遺跡《せききじだいゐせき》の何たるを知る者は决して同意《どうい》せざる所ならん。圖中《づちう》粗製《そせい》石棒の例として掲げたるものは遠江|豊田郡《とよだごほり》大栗安村にて發見《はつけん》せしもの、精製石棒の例として掲げたるものは羽後|飽海《あくみ》郡上郷村にて發見《はつけん》せしもの、共《とも》に理科大學人類學教室《りくわだいがくじんるゐがくきやうしつ》の藏品なり。扨是等の石器は如何《いか》にして造《つく》られしやと云ふに、石斧石鏃の塲合《ばあひ》とは事變はりて、半成品《はんせいひん》も見當《みあ》たらず、細工屑も見當《みあ》たらざれば、明かに知る由|無《な》しと雖も製法の大畧《たいりやく》は先づ板《いた》の如《ごと》く扁平なる石片《せきへん》を採《と》りて之を適宜の幅《はば》に引《ひ》き截《き》るか、又は自然《しぜん》に細長き石を周圍《しうゐ》より缺き※[#「冫+咸」、82−上−12]らし磨り※[#「冫+咸」、82−上−13]らしして適宜《てきぎ》の太《ふと》さにするかして、後徐々に手持砥石《てもちといし》の類《るゐ》にて磨き上げしものなるべし。石《いし》を引《ひ》き截り石を缺き※[#「冫+咸」、82−上−14]らす爲には石斧製造の條下《ぜうか》に述《のぶ》べしが如き方法行はれしならん。
糸掛《いとか》け石とは圖中|精製石棒《せい/\いしばう》の右の端の下に畫《ゑが》き有るが如きものなり。此所《ここ》に例として擧げたるものの出所《しゆつしよ》は遠江周智郡入野村なるが此地《このち》よりは尚ほ類品《るゐひん》數個出でたり。他|地方《ちはう》より出でたる糸掛け石も形状《けいじやう》大さとも概ね此例《このれい》の如し。此|石器《せきき》の用は未だ詳ならざれども切り目の樣子《やうす》を見れば糸を以て括《くく
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