」に白丸傍点] 土偶の用未だ詳ならざれば、其|模《も》したる物は男子のみの形か女子のみの形か、男女兩樣か明かに云ふ能はず。股引と上着とに各二種|宛《づつ》の別有るは地方の風《ふう》の異《ことな》るを示すものが階級《かいきう》の上下を示すものか是亦|疑《うたが》ひ無き能はざれど、其二種に限られしが如きと、兩樣の土偶一ヶ所より出づる事有るとは余《よ》をして土偶形状の別《べつ》は男女の別を示すものならんとの考へを強《つよ》からしむるなり。乳房《にうはう》の部の膨れ方に大小の差有るは尤も注意すべき事たり。余は有力《ゆうりよく》なる反證《はんしよう》を發見する迄は二樣の土偶は男女の相異を示すものとして記述《きじゆつ》すべし。
穿き物[#「穿き物」に白丸傍点] 土偶中には足の指を示したるものと然らざるものと有り。前者は素足《すあし》の形にして後者は穿き物を着けたる形ならん。但し穿き物の搆造は未だ詳ならず。
衣服の原料[#「衣服の原料」に白丸傍点] 石器時代の土器の中には表面に織《を》り物《もの》を押《お》し付けたる痕《あと》有るものあり。織り物には精粗《せいそ》の別あれど最も精巧《せいこう》なるは五分四方に、たて、ぬき共に十八あり。アイヌの製するアツシ織りは五分四方に、たて十四、ぬき十計り故、コロボツクルの織り物中にはアイヌの衣服原料《いふくげんれう》よりは更に精巧《せいこう》なるもの有りしなり。コロボツクルは獸の皮抔《かはなど》を以て衣服を作りし事も有らん。然れども土偶の衣服の部には他の土器の表面と同じく織り物を押し付けし痕有るもの少からず。既《すで》に衣服とするに足る織り物有り、土偶又織り物の痕を有す、余は少《すくな》くともコロボツクルの衣服の或る物は織り物を以て作《つく》りたりと確信《かくしん》す。此織り物の經緯《けいゐ》に用ゐたる糸は何より製せしや未だ明かならざれど、或る種類の植物線緯《しよくぶつせんゐ》なる事は疑《うたが》ふべからず。織り方は普通の布とは異れり。
裁縫[#「裁縫」に白丸傍点] コロボツクルが衣服を作るには皮《かは》にも有れ布にも有れ適宜の大さ適宜《てきぎ》の形に切りて之を縫《ぬ》ひ合はせし事勿論なり。筒袖と云ひ股引と云ひ一續きに作るを得べきものに非ず。切れ物は鋭き石の刄物《はもの》なるべく、針《はり》は骨にて作りたるものなるべし。是等の器具に付きては別に記す所有るべし。共に石器時代の遺跡《ゐせき》より出づ。
裝飾[#「裝飾」に白丸傍点] 衣服の裝飾《そうしよく》は紐《ひも》を縫《ぬ》ひ付け、又は糸にて縫ひ取り、又は繪の具にて塗《ぬ》りて作りしと思はる。土偶中には上着《うはぎ》の所々に赤き繪《ゑ》の具《ぐ》を付けたるも有り、股引に數個の横線 畫きたるも有るなり。
紐[#「紐」に白丸傍点] 紐は上着の襟《えり》を止める爲にも、股引を身に着ける爲にも必要にして、又|裝飾《そうしよく》にも欠く可からざる物なり。土器の表面の模樣中には紐《ひも》を押し付けし痕有り。是等を調査《ちやうさ》すれば種々の平打ち紐の有りし事を認むべし。其|原料《げんれう》は植物の皮《かは》なるが如し。
[#地から2字上げ](續出)
 附言 前回の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]圖中、頭髮に關するものの外他は余の送りたる圖と其位置全く異りたる爲[#「余の送りたる圖と其位置全く異りたる爲」に傍点]説明更に合はず。余は責任者《せきにんしや》が讀者に對して謝《しや》する所有る可しと確信《かくしん》す。
[#改段]

     ○コロボツクル風俗考 第三回(※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]畫參看)
[#地から1字上げ]理學士 坪井正五郎
       ●冠り物
總説[#「總説」に白丸傍点] 冠り物に關しては口碑《こうひ》更に無し。併し土偶を調査《てうさ》すれば慥に二種有りし事知らるるなり。其一は通常《つうじやう》の帽子の如く頭上《とうぢやう》に戴くもの、其二は外套頭巾《ぐわいたうづきん》の如く不用の時は頭後に埀《た》れ置くを得るものなり。別種《べつしゆ》の冠り物も有りしやに見《み》ゆれど精くは言ひ難し。此所《ここ》には二種として説明《せつめい》すべし。原料《げんれう》として用ゐたるは獸皮或は織物《をりもの》ならん。
帽子[#「帽子」に白丸傍点] 土偶中には帽子《ばうし》を戴きたるが如くに作《つく》られたる物二個有り。一は鍔の幅廣《はばひろ》き帽子をば後部にて縱に截り、鍔《つば》の端《はし》をば下の方に引《ひ》きて且つ後頭部に押《を》し付けたるが如き形《かた》なり。此土偶は常陸國相馬郡小文間にて發見《はつけん》せし物にして岡田毅三郎氏の所藏《しよざう》(第一回の※[#「插」でつくり
前へ 次へ
全28ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坪井 正五郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング