《ふくら》み有る物は殊《こと》に柄《え》を固着するに適したり。石錐は種々の物に孔《あな》を穿《うが》つに用ゐられしなるべけれど、孔《あな》の開《あ》きたる儘《まま》にて今日迄|遺存《ゐぞん》する物は土器のみなり。石器時代土器の腹壁《ふくへき》には石錐を以て揉《も》み明《あ》けたるに相違無《そういな》き孔の存する事有り。尚《な》ほ土器の部に於て細説《さいせつ》する所有るべし。
石匕[#「石匕」に白丸傍点] 石鏃《せきぞく》石錐抔《いしきりなど》と同質《どうしつ》にして其大さ是等の五倍或は十倍なる物有り。形状《けいじよう》は長方形《ちようはうがた》、橢圓形《たいえんがた》、三角形《さんかくがた》等の不規則《ふきそく》なるものにして一部に必ず短《みじか》き把柄有り。此の如き石器《せきき》を俗《ぞく》に天狗《テング》の飯匙《メシカヒ》と呼《よ》ぶ。近頃《ちかごろ》は石匕《いしさじ》の名行はるる樣に成りしが、是とても决して好《よ》き稱《とな》へには非ざるなり。イースタアアイランド土人及びエスキモーは現《げん》に此石器《このせきき》を有す。其使用《そのしよう》の目的は鳥獸の皮を剥《は》ぎたる後に脂肪《しばう》を掻《か》き取《と》るが如き事に在るなり。石匕の把柄の部には木脂の附着《ふちやく》せし痕《あと》あるもの有り。是《これ》疑《うたが》ひも無く更に長き木製の把柄を添《そ》へたるに基因《きゐん》す。
製法[#「製法」に白丸傍点] 以上諸種の石器《いしき》の製法《せいはう》は石器其者の形状《けいじやう》を見ても推察するを得れど、遺物包含地《ゐぶつはうがんち》及び其|攪亂《かくらん》されたる塲所を實踐《じつせん》して調査すれば、現に稍々《やや》大なる石材《せきざい》を打《う》ち壞《くだ》き押《お》し缺《か》きて漸次《ざんじ》目的《もくてき》の形状《けいじやう》とせし跟《あと》を認《みと》むるを得るなり。打製石斧は最初先づ漬《つ》け物の重し石の如き物を採《と》り、之を他の石と打《う》ち合はせ數個の破片を作り、其中《そのうち》より石斧とするに適《てき》したる形のものを撰《えら》み出し、臺石《だいいし》の上に乘《の》せ、或は他の石片を槌《つち》として直《ただ》ちに其周縁《そのまわり》を打《う》ち缺《か》き或は骨角《こつかく》の如き堅《かた》き物にて、作れる長さ數寸の棒《ばう》の一端を、石
前へ 次へ
全55ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坪井 正五郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング