まあ、大納言様ともあろう御方が、忍ぶ恋路のなんとやら、………いやもう大変な忍びのいでたちで、ついこの先の竹林の奥に住んでいる竹籠《たけかご》作りの爺《じい》の娘におふみをつけようとなさっているのを、手前この目ではっきり見てしまいました。
文麻呂 (きっ[#「きっ」に傍点]となって)なにッ!
瓜生ノ衛門 (少々驚いて)おふみでございます。
文麻呂 いや、そんなことじゃない! 相手はどこの娘だと!
瓜生ノ衛門 竹籠作りの爺の娘でございます。この造麻呂《みやつこまろ》と云う爺は手前も少しは存じている男でござりまするで……
文麻呂 名前は何て云うんだって!
瓜生ノ衛門 讃岐《さぬき》ノ造麻呂でございます。
文麻呂 (苛立《いらだ》って)爺じゃないよ! 娘だ!
瓜生ノ衛門 娘の名は、たしか……さよう、……なよたけとやら申しました。
文麻呂 何ッ! なよたけ!
瓜生ノ衛門 (あまりに烈しい語気に呆気《あっけ》にとられる)
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丘の上にはいつの間にやら、清原ノ秀臣が悄然《しょうぜん》として佇立《ちょりつ》している………
その豊かにたれた直衣《のうし》の裾《すそ》は烈しくも風にはた
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