そうだろうが?
瓜生ノ衛門 そうでございましょうか?
文麻呂 なんだい、馬鹿に自信がなくなっちゃったんだね。そうだよ! 僕が保証する! そうだとも! 瓜生ノ衛門の帰りを、四十年間、ただひたすらに思いつめ待ちわびているのは美しい、ひとりの忠実な心の少女だ!
瓜生ノ衛門 (感動して)……有難うございます。……有難うございます。……瓜生ノ衛門、明日にでも早速婆さんに逢《あ》いに瓜生の山に帰ってみようと存じます。
文麻呂 それがいいよ、衛門。瓜生の山奥と云ったって、ここからは二里とは離れてやしないんだから、僕だって逢いたくなりゃいつだって逢いに行けるんだ。……ああ、何だか急に風が強くなって来たようじゃないか。
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竹林のざわめきが、急に何やら騒がしくなって来る。……不穏《ふおん》な風の渡る音。山鴿《やまばと》の鳴く声さえも、途絶え勝ちだ。空模様もだんだんあやしくなって来る。燦然《さんぜん》と瞬《またた》いていた星々も、あっちにひとつこっちにひとつとだんだん消え失せて行く………
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瓜生ノ衛門 (不安そうに)
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