ってたよ。
清原 そりゃ大変だな。殊《こと》に夜道になると逢坂山《おうさかやま》を越えるのは一苦労だぜ。……でも、何だってよりによって夕方なぞにお発ちになろうなんてお考えになったのかな。
文麻呂 人目を忍ぶ旅衣《たびごろも》と云う奴さ。でも、親父《おやじ》、あれで内心東国にはとても抱負があるらしいんだ。まあ、別れる時は割合に二人共さっぱりしてて、気が楽だったよ。山科《やましな》の里まで行けば、供奉《ぐぶ》の者がたくさん待っているそうだから……
清原 そうか。それなら安心だ。……いや、実は、妙《みょう》な所で君に逢ったんで、びっくりしちゃってね。
文麻呂 僕もびっくりした。こんな処《ところ》にまさか君が来ようとは思わなかったからな。僕は君をこだまと間違えてしまった。………
清原 え?
文麻呂 こだまさ。例えば、そら、向うの竹山から春風に乗って反響して来るこだまと間違えたのだよ。竹の精と間違えてしまったのさ。
清原 竹の精?
文麻呂 うん。ま、竹の精とでも云うんだろうな。何だか、そんなものがこの辺なら現れそうな気持がしたんだ。この丘へ登ってみたのは、実は僕は今日が初めてなんだがね。とにかく
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