い勢いで、「貴様にはまだ分らんのか!」って怒鳴りつけるんだ。そうかと思うと、やれおけらがどうの毛虫がどうのと、全くとんちんかん[#「とんちんかん」に傍点]な返答をする。しかも論旨は支離滅裂《しりめつれつ》なのさ。もうまるで意味が分らないんだ。……
小野 しかし、それだけのことであいつを狂人扱いにしてしまうのは早計だ。そいつは少し残酷《ざんこく》だよ。
清原 まだまだ思い当る節《ふし》はたくさんあるさ。第一にあの眼だ。あの眼の異様な輝き工合はどうだ! 雲斎先生もそう云ってらしたが、狂人になるとまず第一に眼が異様に輝いて来るんだそうだ。精神を集中することが出来なくなるから、眼光は焦点を失って、いずこともつかぬ方向へ、不気味な輝きを発散するのだそうだ。小野、あいつに逢ったら、まず第一に眼をみてごらん! 僕はあいつの眼をみてると、気味が悪くなって来るんだ。じっと一点を凝視するってことがないんだ。行方《ゆくえ》も分かぬ、虚空《こくう》の彼方《かなた》にぎらぎらと放散しているんだ。定かならぬ浮雲のごとく天《あま》の原《はら》に浮游《ふゆう》しているんだ。天雲《あまぐも》の行きのまにまに、ただ飄々《
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