めぐり逢いを祝福してくれるではありませんか?……自然が僕達の友情を謳歌《おうか》してくれるのです! なよたけ!……あの美しい小鳥の唄を聞いてごらんなさい!
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とたんに小鳥の囀《さえず》る声、聞えなくなってしまう。清原ノ秀臣、とりつくしまがなくなる。…………
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文麻呂 なよたけ。……御覧《ごらん》なさい! 鮮かな緑の竹の葉を通して、輝かしい僕達の太陽が恵みの光を投げかけているではありませんか!……あれこそは偽りのない神の祝福の啓示《しるし》です。僕達は祝福されているのです。……なよたけ! 御覧なさい! あの輝かしい太陽の恵みを!
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とたんに、輝く日射は薄暗く翳《かげ》ってしまう。同時にまた小鳥達が賑《にぎや》かに囀り始める。
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清原 なよたけ! ほ、ほら!……小鳥達だけは本当に僕達の味方です! あの小鳥達の囀りと共に、僕達の永遠の友情は生れるのです!……(聞く)あのひときわ高い声でちゝちゝゝと鳴いている鳥は、あ、あれは、ほ、ほおじろなのでしょうか?
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とたんに小鳥の囀り止む。
同時に再び木洩日《こもれび》が輝き始める。………
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文麻呂 御覧なさい! 輝く光の扉は僕達にこそひらかれるのです! なよたけ! 聞いて下さい! 僕は即興の詩をあなたの美しい魂に捧げます。聞いて下さい。………(大げさな身振りで朗詠《ろうえい》する)
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見よ、さやけくも世界はひらけ………
天《あま》つ日は、今ふり注ぎ
この郷《さと》は、いずこの国か
草も木も、恵みに溢れ………
とたんに再び日は翳ってしまう。小鳥が囀り始める。
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清原 なよたけ。ぼ、僕もあなたに詩を捧げます。小鳥の詩です。聞いて下さい。(どもりどもり朗詠する)
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あしびきの 山辺に居れば
竹の葉の 茂み 飛びくく 春の鳥
とこしえに 囀り鳴けよ 君がため………
とたんに小鳥の囀り止む。陽が輝き始める。また陽が翳り、小鳥が鳴き出す。また小鳥の鳴声止み、陽が輝き始める。………
これが次第に烈《はげ》しく繰返される。二人、狼狽《ろうばい》して、為《な》すことを知らず。
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文麻呂 (不安そうに空を見上げ)なんだか妙な天候になって来ましたね。……
なよたけ (突然わらべ達に)みんな! 教えて頂戴! あたしには分らなくなってしまった。……この人達は一体誰なの!
雨彦 (空を見上げ)なよたけ! あんなあな[#「あんなあな」に傍点]だ!
わらべ達 あんなあな[#「あんなあな」に傍点]だ! あんなあな[#「あんなあな」に傍点]だ!
文麻呂 (訝《いぶか》しげに)どう云う意味なのです。……そのあんなあな[#「あんなあな」に傍点]って云うのは?
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[#地から1字上げ]――幕――

  第三幕

     第一場

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都大路《みやこおおじ》の一廓《いっかく》。……とある辻広場。
葵祭《あおいまつり》の日の午後。うららかな五月の祭日和《まつりびより》である。
舞台の両端には美しい花の咲き乱れた葵の茂みと小柴垣《こしばがき》がある。
そぞろ歩きの平安人達が、あるいは左から右へ、あるいは右から左へと、会話をしながら往来する。その他、無言の通行人、行商人等も多勢往来する。
誰《だれ》も彼もが華《はな》やかに着飾《きかざ》り、それぞれ美しい花のついた葵の鬘《かずら》をかけて、衣裳《いしょう》には葵の蘰《かずら》をつけている。……
遠くで、神楽《かぐら》の笛がひびいている。街は人々のさざめきに充《み》ち溢《あふ》れている。
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男1 (右より)ええ、そこを偶然この私が通りかかったと云うわけなのですよ。
男2 ほう。……それはまたこの上もなく運がよろしゅうございましたねえ。
男1 ええ。もう、何と云いますか、あたりは夕靄《ゆうもや》に大変かすんで、花が風情《ふぜい》あり気《げ》に散り乱れている。……云うに云われぬ華やかな夕方でした。……私も実はなぜかしらず心が浮き浮きしていましたもんで、……あの女《ひと》がすーっと簾《すだれ》を巻き上げて、こちらの方をちらっと見られた時の、そのかおかたちの美しさと云ったら、……それこそもう……(二人左へ退場)
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