し達はきっと小さな星なんだわ。
文麻呂 なよたけ!……幸いの星だ。僕達は大空の中にたったひとつの幸いの星だ。
なよたけ こんなことって、あたし、今までちっとも考えたことないの。だけど、きっとそうだわ。……あの数知れないたくさんの星と一緒にあたし達の星も、この広々とした大空の中をあてどもなくめぐりめぐっているんだわ。そして、とても綺麗《きれい》な星に違いないわ。きっと、一番美しくきらきら輝いているんだわ。……ねえ、文麻呂。そんな気がしない? あたし達はいつの間にか大空の真只中《まっただなか》に出てしまったの。もう、どうすることも出来ないんだわ。ただ、しっかり抱き合っているだけ。いつまでもいつまでも離れないようにしっかり抱き合っているだけ。……文麻呂! 文麻呂! あたしをしっかり抱いて頂戴!
文麻呂 抱いている。こんなに強くお前を抱いている。……
なよたけ ……ああ、嬉《うれ》しいわ。この広い大空の中で、あたし達はたった二人だけなのね。たった二人だけ。……あたし達だけが生きている。……あたし達だけが本当に生きている。……こうしている時だけが、本当にいのちと云うことなのね。あたし達の背後《うしろ》には何にもない。あたし達の前には何にもない。……ただ、このしあわせな時の間《ま》だけがすべてなんだわ。……ねえ、文麻呂! どうすればいいの! このしあわせな時の間がいつまでもいつまでも果しなく続くようにするには、どうすればいいの!
文麻呂 生きて行くんだ。お互いの愛を信じ合いながら、強く生きて行くんだ。なよたけ! 僕達はまず、家を作ろう。……同じ屋根の下で僕達は一緒に暮すんだ。どこか人里離れた静かな山の中に、綺麗な家を一軒建てよう。軒には品のいい半蔀《はじとみ》を釣るんだ。……家の周《まわ》りには檜垣《ひがき》をめぐらしてもいい。それから、小ざっぱりした中庭を作ろう。切懸《きりかけ》のような板囲いで仕切って、そいつには青々とした蔓草《つるくさ》を這《は》わせるんだ。中庭には、あちこちに夕顔の花が一杯咲く、……ねえ、なよたけ! 僕は夕顔がとても好きなんだぜ!
なよたけ 文麻呂、……そうすれば、あたし達は幸せになれるの? 今よりも、もっともっと幸せになれるって云うの?
文麻呂 なれるとも! きっとなれるとも! もう大空と僕達の間をさえぎるものは何もないんだ。天の恵みに充《み》ち溢《あ
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