ひでおみ》と小野《おの》ノ連《むらじ》、話し合いながら登場。中央まで来ると、立止って立話をはじめる。……
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小野 む。……それは僕もそう思った。石ノ上の奴、まるでもう、何と云うか、それこそ物《もの》の怪《け》にでも取《と》っ憑《つ》かれてしまったような有様《ありさま》だ。
清原 それだから、僕は困るんだよ。……ひとりで張切って大納言様の噂《うわさ》をああしてこそこそ都中にふれ廻ってさ、……あれで自分ではうまく行ってるものと思ってるらしいけど、僕あ、僕あ何だか少し恥しくなって来たよ。
小野 恥しい?……おい清原。恥しいと云うのはどう云うわけだい?……情無いことを云うじゃないか?……そりゃ僕はこの計画には局外者だし、親友の誼《よしみ》をもって、蔭ながら君達二人を援助して来ただけだが、……いくらなんでも恥しいとは何だね? それで君、なにかね、石ノ上に対して申訳が立つと思うのかね?
清原 (自棄《じき》的に)僕はもう嫌になっちゃったんだ! もう僕あ、こんな大それた計画からは手を引きたくなったんだ!……ねえ、そうだろうじゃないか、小野。こんなことをしてたら、今に僕達はどんな眼に遭《あ》うと思う?……例えばさ、僕達が石ノ上と一緒になってこんなことをしてるなんてことが大納言様のお怒りに触れて見たまえ。僕達までが石ノ上と同じように大学寮を追っぱらわれてしまうかもしれないんだぜ。……
小野 (じっと清原の顔を凝視《みつ》め)清原。……貴様、恋が醒《さ》めたな?
清原 恋は石ノ上の心にのりうつってしまった。恋の炎《ほむら》は今では石ノ上の心の中に燃えさかっている。僕の恋はしらじらと醒めきってしまった。……小野。僕あ白状する。……僕あなよたけが好きじゃなくなっちゃったんだ!……(顔を伏せる)
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間――
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小野 (妙に調子を変えて)……清原。……君があの烈しい恋の酩酊《めいてい》から醒めたからって、……別に俺が君に対して何を云うことが出来よう?……かしこ過ぎて、ここ現実《おつつ》の園に戻り来《きた》れば、何事もみなはかなき[#「はかなき」に傍点]一炊《いっすい》の夢だ。……俺は実は今まで心の中で君を軽蔑していたが、今度は石ノ上を
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