にもこつちにも、はつきりとした線をもつてまんまるい味瓜が描きだされた。
『味瓜を喰べてはいけませんよ、味瓜を喰べてはいけませんよ、味瓜は冷たい冷たい』
 男はなにかの歌でもうたふやうな調子で女の手から小さな二つの味瓜をひつたくつた、そしてたくさんの御追従笑ひをした。
『ね、なぜ喰べてはいけないのかしら、こんなに沢山あるのにね、盗んだのだから、口にいれるのがあなたは怖ろしい気がしてゐるのでせう、臆病ね』
『女が南瓜や味瓜をたべるのはよくないのです、血が荒れるといふ話ですよ、ざくざくになつてしまうんでせう』
『血が荒れたつてざく/″\になつても喰べて見たい、こんなに美味しさうにふくれてゐるんですもの、妾《わたし》なんかとつくに荒れてしまつてゝよ、かまふものですか』
『そんなことはありません、娘さんちよつとお手を拝見しませう』
 からだをゆすぶつてゐる、娘さんの手を男はそつと握つた、自分の掌の上に娘さんの重たい掌をのせてみると、どつしりとした厚ぽつたく動かない魚のやうに、またいかにも金目のなにかの貴金属でものせてゐるやうにも思はれた。

    (六)

『味瓜は後から悠つくりとおあがりなさ
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