つて動かして、とうとう無事に手を握つてしまつた。

 男と女とがならんで草原を散歩した。
 男は河岸に来たときに、水面の月の反射を怖れて頬かむりの顔を水からそむけたが、女はいたつて平気に、水の反射と月光を正面からうけてぎら/″\と頬を動かしながら、でも自分から足を暗がりの方にさつさと向けて河沿ひに歩きつゞけた。
 男が河岸の斜面を歩く、せきこんだ落ちこむやうな感情に上気していまゝでたんねんに用意深く考へ
『でも妾《わたし》が若しあなたを嫌ひであつたら……どうして』
 娘さんは小さな低い声で男の頭のてつぺんでかう言つた。
 乳房のところを頭でぐんぐん動かしてゐるうちに、きつと娘さんがだまり込んでしまふときが来ることを知つてゐたので、横着に額を機械のやうに動かしてゐた男であつたが、でも娘さんの言葉が気がかりになり初めたので、念のために、娘さんの胸から不意に二三歩とびすさつて、片手を内ふところに荒つぽく襟のあたりにいれてふところの中で大きな拳骨をつくつて見た、眼は白眼ばかりにしてゐなければならないので、暫らくの間は胸苦しい呼吸《いき》がして娘さんがどんな顔をしてゐるのかさつぱりわからなかつた
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