れ》た。
『もちつと、そちらに行つて聞いてごらんなさい。
この辺の底のやうにも思はれますが』
『いや、そつちではない、この辺でござりませう』
『おや歯と歯が触れあふやうな音がした、こんどは太い濁つた男のいちだんと高い声が聞えます』
街の人々はあつちこつちの地面に耳をあてゝその唄を聴いたしかしたゞ街の地の底で聞えるといふだけで、どのへんで唄つてゐるのかわからなかつた。
土の中の馬賊の唄、この街の人々の伝説はかうなのです。
馬に乗つた馬賊の大将が従卒もつれずたつた一人で広々として[#「て」に「ママ」の注記]野原を散歩した。
その夜はそれは美しく丸い月が出てゐた。
馬賊の大将は馬上でよい気分になつて月をながめながら、口笛をふいたり小声で歌をうたつたりしてだんだんと馬を進めてゐた。
手綱もだらりとさがつたきりになつてゐたので、この馬賊を乗せた白い馬も、のんきで風流な主人を乗せて、あちこちと自分の思つたところを、青草を喰べながら散歩することができた。
ふと馬賊が気がついてみますと自分は山塞からだいぶ離れた草つ原にきてゐた。
そして其処は切りたつた崖になつて眼下に街の赤い燈火《あ
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