らだ》が軽《かる》くて気持ちがいい
(地球《ちきゆう》で百五〇|封度《ポンド》の重《おも》さの人間も、火星《くわせい》では六〇|封度《ポンド》になる。人は地球《ちきゆう》にゐるときよりも二|倍半《ばいはん》高《たか》くとべる。)


(いま実験室《ぢつけんしつ》は火星《くわせい》のやうになってゐる。酸素《さんそ》・窒素《ちつそ》・水蒸気《すいじやうき》なんどは有《あ》ってもとても少い。)
あれ酸素《さんそ》が少いんだつて マスクがとれたらみんな死んでしまふぞ
まあ おそろしい
それぢや火星《くわせい》には人|間《げん》なんかゐないや


酸素がなくちや猫《ねこ》だつて住めないわ
(火星《くわせい》には水《みづ》も少《すくな》い。もし海《うみ》があるとすれば、春《はる》の雪《ゆき》どけのときだけできる浅《あさ》い海だ《うみ》だ。)


(地球《ちきゆう》から見《み》える火星《くわせい》の黒《くろ》いところは、だから海《うみ》といふよりも沼《ぬま》か 小《ちい》さな沼《ぬま》の集《あつま》ったのか、川《かわ》だ。)
火星《くわせい》といふところは 寂《さび》しいところなんだなあ


(これが想像《さうざう》した火星《くわせい》の表面《へうめん》で一|面《めん》の砂原《すなはら》で植物《しよくぶつ》もある。)
やあ 寂しいところに来てしまつたぞ
まるで砂漠《さばく》のやうね


僕《ぼく》の見た火星の夢《ゆめ》は こんなに寂しくはなかつたよ
だつて夢だもの なんでも見られるわ
さうだ 夢より科学《くわがく》の方がほんとうだ


ちがわい 夢からいろいろの科学だつて生れたんだい
ぢや テン太郎さん何んと何にが生れたの?


たとへば 人|間《げん》が空を飛《と》びたいと考《かんが》へてゐたから とうとう飛行機《ひかうき》といふものを考へ出した
さうだ 想像《さうざう》は発明《はつめい》の母《はは》だ!


ちがひますよ テン太郎さんの夢《ゆめ》は目をつぶつて見たんでせう 科学《くわがく》を生みだす夢は目をあけてみる夢だわ
こいつ 生意気《なまいき》な!
目をあけて 夢を見られるかい


みられるわ さういふ夢を想像《さうざう》とか空想《くうさう》とかいふんだわ
うそだい 科学者《くわがくしや》なんか空想なんかしないよ
ちがひますよ しますよ


ニャンちやんなんか駄《だ》目だい
鼠《ねずみ》の夢より見ないんだから
ひどいわ ひどいわ アーン ぢやピチちやん あんたは泥棒《どろぼう》を追《お》つかける夢より見ないんだわ アーン


(これこれみんな喧嘩《けんくわ》をするな※[#感嘆符二つ、1−8−75])
あれ? 叱《しか》られた
なんでも映《うつ》るんだなあ
(フフフ。)


あれニャン君が今 フフつて笑《わら》つたぞ
いま泣いた烏《からす》が笑ひだした ハハハ
だつて あんなところに映つたりして おかしいんですもの
ニャンちやん 仲直《なかなほ》りしやうね


あら変《へん》だわ わたしなんだか寒《さむ》くなつてきたわ
どうしたんだらうね
僕《ぼく》は少しも寒くはない


おお寒《さむ》い! もうたまらないわ
(ブルブルブル)
ほんとだ 少し寒くなつてきたぞ
僕《ぼく》はすこしも感《かん》じませんよ


ニャン君 僕とピチ君の間《あひだ》にかうしてはさまつてをいでよ
(ブルブルブル)
昔《むかし》から猫《ねこ》は 寒がりときまつてゐるんだよ


あれッ、これはきれいだ
ほれごらんなさい こんなに氷《こほり》だらけになつたわ
(ブルブルブル)
やあ きれいだなあ うわあ、寒い寒い


(実験室《ぢつけんしつ》の中《なか》の温度《おんど》をだんだん下げて 火星《くわせい》の寒《さむ》さにしてみる。)
火星の寒さはどの位《くらゐ》だらうな
おや寒く なつてきたネ
(ブルブルブルブル)
昔から犬は 寒がらない動|物《ぶつ》であつたはづだわ


(火星《くわせい》にも北極《ほつきよく》のやうな寒《さむ》いところがある。『極冠《きよくくわん》』と呼《よ》んでる。まんなかのは火星《くわせい》にのぼつた月《つき》だ。火星《くわせい》の寒《さむ》いところは零下《れいか》四十|度《ど》から零下《れいか》七十|度《ど》の寒《さむ》さだ。)
おお寒い寒い これはたまらん


あッ! ピチクンがのびちやつた
あれ?


お父さん! 大変です あけてください!
そんなところたたいてもだめだわ そこの扉《ドア》をあけるんだわ
[#改ページ]

コオロギと蛙《かへる》


やあ助かつた
お父《とう》さん ピチクンがこんなになつちまつた
こりや失敗《しつぱい》 しかし実験室《じつけんしつ》はまだ零下《れいか》四十度そこそこな
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