エッ? わしを火星で知つてゐたか?
○
エヘン! オホン
さうぢやらう そこでわしの研究《けんきう》を火星で知つてゐたかね
ええ 何にもかもみな知つてゐました
○
月|野《の》博士《はかせ》とお父さんと髯《ひげ》の引《ひ》つぱり合ひをしたのも
えッ? それはまたどうして? ……
(フフ)
(クスクス)
○
火星では 高い大きなビルデングのやうな望遠鏡《ばうゑんきやう》で 地|球《きう》の出来ごとをみてゐるのです
ナニ?
そんなばかげたことがあつてたまるものか
○
だつてお父さん ほんとにあつたんです
そんな馬鹿《ばか》なことはない!
まあ貴方《あなた》 それはテン太郎の夢《ゆめ》の話ぢやありませんか
○
僕《ぼく》 夢でほんとにみたんですよ
ほい 失敗《しま》つた! 本気に腹《はら》をたてたか ははゝゝ
○
さあさあ 朝ご飯《はん》の仕度《したく》ができました
しかしね テン太郎
地|球《きう》から火星《くわせい》を見るのに大|望遠鏡《ばうゑんきやう》がいるとはかぎらん
小さな望遠鏡でもいいんですか
○
さうぢや 鏡径《さしわたし》八インチか十インチもあれば沢山《たくさん》ぢや
望遠鏡の大きさより大|切《せつ》なことがある
それはなんです
○
それを天|文学者《もんがくしや》は『グット・シーイング』といつてゐるんだ
これは専門語《せんもんご》[#「専門語」は底本では「専問語」]だよ
グット シーイング
グット シーイング
○
グット シーイング 僕《ぼく》は天文学の専門語[#「専門語」は底本では「専問語」]を覚《おぼ》えてしまつたぞ エヘン!
おやムヅカシイことを言つてテン太郎 それは一|体《たい》なんのことですか
あれ まだ聞いてゐなかつた
○
ははゝゝそれはね 天|体《たい》を見るには機械《きかい》にばかり頼《たよ》らないで『見るのに具《ぐ》合ひのいい調子《てうし》』にしておくことだよ
あゝ わかつた 高い山のてつぺんに天文台をつくるとか
○
さうだ、しかしいくら高い山へ建《た》てても雲が多《おほ》いとこぢや駄《だ》目だ
さうですね 高くて雲がなくて
○
さうだ 地球の上の雲はぢやまになる しかし火星の雲を見るのは これは仕事《しごと》だよ
むづかしいんですねえ…
○
テン太郎 火星《くわせい》に人|間《げん》がゐたか
ゐましたよ 頭《
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