の中の歯が全く抜けてしまふまでにはまだ間があるだらう。今となつては彼にとつては抜け残つた歯が邪魔な位だ。彼の口にする処のマルクス主義の残党などは何処にもゐないので、ただ彼自身の口の中に引つかかつてゐる丈である。
▼さういふ意味で彼位曾つてのマルクス主義者に手ひどい惚れこみ方をした男はちよつと珍らしい。ジャナリズムは彼を保護するだらう。何故ならジャナリズムは彼より少し許り利巧だから、杉山氏のやうな時代的矛盾の全き反映として、立派な抽象的人物をジャナリズムが大切にしないわけはないから、有用なものはいつも利用されるだけである。杉山氏の書く文章が仮りに今後どれ程愚劣なものに化しても、客観的興味を失ふことは決してあるまいし、事実彼の今後の書くものには漸次さうしたサロン的色彩を帯びてくるだらう。
文学長期建設
作家には停戦なし
▼政治の物々しい行動に怯えたインテリゲンチャ作家が、少し許りの良心性を社会にひけらかす為に「日本的なもの」といふ抽象的な言葉を持ち廻つたのはつい最近であつた。そしてさつぱり具体的な日本解明に、足を踏み込むことも出来ず、その醜態のクライマックスを示してゐた時、今事
前へ
次へ
全40ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング