一枚二万円に売れ、戦地の泥土の中にしやがんで描いた従軍画家の絵が十円に売れたといふことに就いて、これは価格の差を論じてはいゝが、赤誠の差はうかつに論じられない、大観もまたその無名従軍画家も、赤誠において純粋であつたといふことは均しいからである。一枚二万五千円で買ふ人が存在するのである、この人はそれを買つたために破産するわけはないのである。
世の中には芸術の値打を、そのまゝに理解できない人がゐる、それを金銭に換へて始めてわかる人がゐる、「良い絵がないか」と画家のところへやつてこないで「高価な絵がないか――」といつてやつて来る購買者がゐる、百貨店のお客の中でも、一本の帯を買ふにも、値段の最低のところから、漸次高い値段のものに選びすゝめてゆく客と、もう一種類の客は、まづその店の最高の価格のものへ目標をたててそこで選んでゆく客がある、資本主義の世の中では、価格の高いものほど優良なものといふことになつてゐる、夏蜜柑は酸つぱいものをクーといつて嫌ふ人があるとすれば、それは夏蜜柑を一個、五銭か十銭のものより買つたことがないからである、一個十五銭も、十六銭ものいちばん高いものを買へば、夏蜜柑もなかな
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