が起きたか、人に言はせれば、美術院の幹部はときどきさういふヒステリー的なやり方をするのださうだ――物の順序を欠いて、お先に先生より偉くなつたM氏は、したがつて仁義の上に於いても順序を欠いてゐた、南風氏のところに訪ねてきたM氏は、立つたまゝ足指で座布団をひきよせて、座つた、弟子M氏の昨日に変る横柄な態度を、南風氏はじつと無言のまゝ眺めてゐたといふことである。この話はいかにも傍で見てゐたやうに筆者に話した人がある、当時の南風氏の苦衷を手にとるやうにその人は! 語るのである。
『いまに見てゐれ!』と忍耐そのものの南風氏の表情まで真似てその人は筆者に語るのである、それはおそらくゴシップであらう、しかしゴシップであらうが、真実であらうがどちらでも構はぬ、如何にも実在しさうな話である、南風氏はその後それかあらぬか、画境の上で、また押しと飛躍では、他の追従をゆるさぬ世界を示しだした、まもなく南風氏は同人となつた、そしてM氏は、東京に居たたまらないものがあつて京都に去つたといふことである。丁度南風氏の『朔風』に描かれてゐる波の上をとぶ鴨の群の、トップを切る鴨のやうに、南風氏の飛翔力は着実となつたのであ
前へ 次へ
全419ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング