川特有の『夜半の濃霧』の中にまよひ出て、風土の立ち食ひをさして見たい。
彼に遭つて親しくその風貌に接して、彼の好んでゐるアンリ・ルッソオと、彼の人格とを結びつけて私は考へて見た。
のつそりと泥棒よりも静かに、私の玄関口を訪れた、髭もじやの彼の顔こそ私の第一印象は『愚鈍な聡明さ』を思はせ、彼操吉もまたこの熱情の税関吏から、野性といちめんグロテスクな味覚とを収穫したのではあるまいか。
彼はまた、ブレヱクの幻惑に酔ひ、ゴッホの向日葵と燃焼し、ダビンチを愛敬し、グレコを恋慕し殊に私の愉快に感じたのは、操吉が、狐のやうに尖つた顔で絹扇をばた/\動かし、桃色と幻青《あお》との軽羅《うすもの》の女を、好んで描く女画家マリー・ローランサンに惚《ほれ》てゐることだ。
彼の詩並に絵は、彼の恋人の作のやうに幽幻な妖気にみち/\たものである。
私は彼の詩風を他人《ひと》がよく、千家元麿氏の流れをくんだ平明さを追ふものだといふ言葉をきくことがあるが、私はさうは思へない、千家氏からは不用意な素朴さの牽引力を感じるに反して、彼は細心な野性をもつてゐる、この点ではずつと象徴的である。
その例として彼の絵を
前へ
次へ
全419ページ中227ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング