にかぎるまい、政府と接触する民間団体の中には、単なる『座談会用の人間』がまことに多いやうにも見掛けられる。
子供読物の浄化座談会では、教育者が実状とは全く遠い現象的な改革意見をのべる、すると座談会に参加してゐる、世間的にも有名な漫画家が『どうも漫画といふものは、教育と背中合せの所がありますね――』などとお座なりな意見をのべて、そこで一同がまた笑ふといふ状態である、大部分の漫画家の文化的水準の低いことはお話にならない、これまでの赤本漫画や、絵本の作画家は、その低俗な意味に於いて、出版業者とよくウマがあつてゐた、現在までに卑俗性を高揚させるには、前述の漫画家の座談会での発言のやうに、『漫画といふものは教育とは背中合せだ――』といふ意見通りにやつてきたのである、浄化がこゝまでに到つても、まだ子供読物は反教育的であつて構はぬなどといふ、無理論な漫画家が現在でも少くない。
しかも文学者や、科学者や、画家、教育者などは、商人よりは文化人であるといふ意見は、常識的に通用することである、しかし温ま湯のやうな低い文化性などは、商人の現実からの反映の敏感さで、割り出された、現実的行為の前には、往々にこの文化人なるものが、商人にイニシャアチブを握られるといふ現象も起る、従来の漫画家の場合は、それが最も極端に現はれ、一冊の漫画ができ上るためには、漫画家は出版屋から、要求される――といふ形式で、実はさまざまの牽制をうけてきたのである、漫画家が気品のある漫画を描いたときは、それは売れないといふ理由で、卑俗な漫画の形式へ復帰逆戻りさせられたり、画中の人物を乱暴に扱ふ仕組みは歓迎された、画中の主人公が無人島に漂着する、猛獣が現れて、この太郎少年を脚で跳ねとばす、すると少年はきまつて椰子の幹にぶつかると、上から椰子の実が落ちてきて、下の太郎少年の頭にあたり、少年は『テヘッ、いてイ』(痛い)と叫ぶ、このやり口は殆んど常套手段である、
漫画の教育的意義などは、どこにも発見できない、丸髷の奥様が、乳房を露出して海水浴をしてゐれば、蟹が泡をふいてそれを見物してゐるといふ野卑なものから、『アリャリャ』『アタタタタ』『ウヘッ』『テヘッ』『ヱヘヘヘ』『ヒャア』『アレレ』『ウワッ』『チヱッ[#「ヱ」は小文字]』などの愚劣な感動『止まれ』といふべきところを『トトトト止まれ』といひ『大将』といふべきを『タタタタ大将』と表現し、この赤本漫画を読むことによつて、子供の正しい発言を、吃音児童に養成するやうなものである、ドモリの子供をつくる許りではない、鶏の鳴き声に似た(二字判読不能)雲助的(三字判読不能)追従的かけごえ『ケケケケ』とか『テヘヘ』とか人間の言葉とは思はれない言葉を汎濫させ、チャンバラ漫画では人間の胴体の輪切り、頭部の唐竹割り、黒ん坊を虐殺する人種的偏見場面、血シブキの飛散、博徒長脇差、他人の部屋に忍んでゆく破廉恥漢、忍術、空中飛行、等悪材料は枚挙にいとまがない、当局が浄化に手をつけた頃は、その粗悪な頂天で恐怖状態を示してゐたのである、
三
これらの粗悪漫画の数量や、配布範囲が広いといふことを、監督官庁が気づかなかつたといふ一理由はある、それはこの種の粗悪絵本や漫画は、内容の吟味された高級子供出版物とは、全くちがつたところに、出版業者の取引配布網があつたといふことである、価格もまた五銭、十銭二十銭程度のもので、長篇漫画で六七十銭級といふ、現在は一円近い低廉なことが特長であつた、これらの安漫画は、デパートの書籍部や、文学、哲学などの高級書籍を扱ふ書店には現はれない、赤本の配本網は別なところである、二流、三流どころの本屋、古本屋、玩具店、最も大量消化するのは、夜店商人であつた、本屋もない地方によつては、雑貨店の一隅に、チリ紙の束の隣りに、或は黒砂糖の桶の隣りにならんで売られてゐるといふ具合に、全く庶民的立場にある安価本として扱はれてきた、当局の検閲の眼の下をくぐつて出版されてゐたかどうか、粗悪時代の当時の状態は保証の限りではない、検閲の眼にふれることが少なかつた理由がもう一つある、赤本類は、出版物としてよりも、玩具形式として扱はれてゐたことである、木製の赤い自動車や、ブリキ製の青い船にまじつて、この漫画本は、何かしら赤青を塗りたくつた本、といつた程度の、玩具としての認識より外には、出版業者がもたなかつた、取締強化に際して、赤本出版業者は、児童の出版物といふものは、いかに喧しく取締られるものであるかといふことを、始めて経験し、なかには唖然として策の施しやうを知らなかつたのも出版業者にとつては無理があるまい。
浄化座談会で、教育家の一人の意見では、粗悪本の影響を避けるためには、子供自身に本を選ま[#「ま」に「ママ」の注記]せるからいけないので親が選択して買つて
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