といふ見解よりも、かういふ言ひ方がいゝ、当局の取締方針が、漸次、確立するにしたがつて、出版業者が逆に出版の『方針』がわからなくなつて、出版能力を減殺していつたと解す方が正しいだらう。
 現在の状態は、子供漫画の場合は、童話、絵本の類よりも、はるかに出版能力が低下してゐる、取締を強化しない以前に発行したものは、内容が悪くて、再版して発行するといふことは不可能な状態にある、当局もまた再版ものを喜ばないのである、出版業者は、従来の既刊物を自発的絶版にしてしまふより仕方がない、或る出版業者の話であるが、この業者は七十種類ほど漫画を刊行してゐたが、現在その大部分を自発的絶版にして、今は手持漫画は数種よりないといふ、市場に商品は、少くなるばかりであるし、新しく出版しようとすれば、当局が児童読物の内容に対して、いろいろの注文をする、その当局の注文を呑み込めない出版屋が多い、したがつて出版も渋滞し勝ちであるが一方、漫画は市場に品不足で、さうした中で、出版しさへすれば羽が生えて飛ぶやうに売れる、需要に応じきれない現在、出版業者は出版はしたいし、出版取締の(以下十字判読不能)至難といふジレンマに陥つてゐる状態だ。
 子供読物取締に就いて、一※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]話がある、内務省の一役人が、関西地方の視察旅行をしたとき、ある本屋に入つて、子供にはどんな本が、いちばん売れるか――、と質問した、そのとき本屋が、これですと差出したのが、所謂赤本漫画であつた、その漫画の内容がまた言語に絶した、粗悪なもので、本屋の主人に『これはどの位、売れるものか』と質ねたところが、全国に数十万、捌かれるといふことを聞かされて、役人は驚愕した、これではいかんと浄化取締に着手したといはれてゐる。
 過般の児童読物浄化取締は、児童心理の研究者や、教育者が当局に浄化取締の、動機をつくつて与へたものでなくて、今回の取締の当局自身が、それに着手したといふことが、特徴的なところである、子供漫画がそれほどに俗悪のクライマックスに達してゐるのに、児童心理の研究者や、教育家達は、それまで何をしてゐたかといふことに就いては、この人々が、決して教育に対して不熱心でも、専門的でなかつたわけではあるまい、何故なら『××的教育の批判的云々』とか、『児童心理学から見た××』とか、さかんに教育に関する著書も、むづかしい名前がつけられて発表されてゐたから、いろいろな子供の善導についての研究会や、座談会も盛んに催してゐたやうであるから、しかし、現実にこれらの人々と、子供読物の急速な卑俗化とは何の関係もなかつたのである。理想主義的な教育主張をもつ人々や、これらの著書とは別に、燎原の火のやうな勢ひで、粗悪漫画が子供たちに、広く手渡されてゐる事実は、早晩、社会問題化さないでは、をかない性質のものであつたわけだ、私はこゝで国家の文化政策と、利益を目的にした商人の生活との、協調などといふことが、如何に至難な事業であるかといふことを言ひたい、子供のためになる良い本を出せば、それですべてが解決するのである――しかしこの単純にみえる政策が、事実の効果の上では、たつた一冊の良い本になつて現はれるといふことの、そこまでに到る裏面的事情は、複雑多岐を極めて、たどたどしい性質のものであることを知らねばならない。

    二

 或る子供絵本、漫画の改革の座談会の席上、一教育者が、出版業者にむかつて、かういふことを言つた、『みなさんは儲けること許り考へないで、たまには損をしても良い本を出して下さい』そして教育者と出版業者とが声を合して、和気藹々と哄笑したのである、しかしこゝには二つの性質の哄笑があつたのである、深刻なのは出版業者側の発した笑ひである、いつたい商人が儲けを除外して出版するなどといふことは、全く考へられない、教育者のさうした出版業者に対する求め方は、現実的性質の薄弱なもので、夢想である、商人側が声を揃へて笑ふのも無理がないのである、
 現在、政府の子供読物浄化方針は、出版業者との直接な触れ合ひによつて進められ、すこしづゝ内容が改良されて行つてゐる、さうした場合の、教育関係者は、両者の批判的な実行的な位置になど、全く立つてゐない、これまでも、また現在も、当局の相談役的存在は、その吐くところの意見が、出版業者の実状とは全くかけ離れたところにある、一口に言つて理想論が多い、私はこの種の人々を『座談会用の人間』と呼びたい、一つの問題解決のために、政府当局の招きによつて、改革に参画し、直接その事業に携はる業者を前にして述べる、これら専門家達の改革意見は、その座談的老練なる故で、其の場の雰囲気を柔らかにはするが、ただ一冊の本の内容を実際的に改める力をもつてゐない。これは絵本浄化の場合
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