裸婦群像であると見てをります、従つて女の肉体的描写といふテクニックがこの作品の出来栄えを決定する性質の作品でせう、審査当日審査員間で論争のあつたのは、その個所であつたでせう、私は貴方の作品の支持者です、しかし今回の『三人の女』は発表されたものをみて、残念ながら支持できませんでした、何故なら、美術批評家といふ民間審査員として、あの作品は涙をのんで落選させてゐたでせうから、文部当局や、頭の硬い審査員の審査標準としての論点が、もし社会風教上とか、安寧秩序とか、道義的立場からとかいふことで、貴方の作品の入選反対者であるのであつたら、私はそれに与みしません、しかしもし芸術作品の審査といふデモクラシーに立つて見た場合に正統な理由の下に、入選反対をした審査員があつたとしたら、(それが誰であつたか知りませんが)この人に与みするでせう。
貴方の『三人の女』は入選しました、私はその作品をみて、内心驚ろいたのです、よくこの絵が入選したと――、洋画家は裸婦といふものに対して、それを性慾的にではなく、物質的解釈をするといふ訓練があるのです、日本画家の『三人の女』はそうした訓練を欠いた、過失作の一つと見るべきでせう、ワイセツ感を与へないやうに裸婦を描くといふことは、駈け出しの美術学生でも洋画家の場合には描く精神的技術的訓練があります、それに拘はらず、日本画壇に於いては、すでに相当の画壇的位置を占めてゐる貴方が、それが出来なかつたのです、洋画の裸婦をみつけてゐる私の眼には、貴方の作品は、画面の全体的雰囲気に於いて、春画的、性慾的、ワイセツ感をそこからうけとつたのです、然し私は批評家的立場から、どうして貴方の作品がワイセツ感を与へるかといふ吟味を会場で始めました、そしてそこに最もワイセツ感を強めてゐる『一本の線』を発見しました、それは『三人の女』は子供を差し上げて立つてゐる女と、髪に手をふれてゐる坐つてゐる女とがゐます、この二人は腰を布で掩つてゐます、顔を前に向けて横に寝そべつてゐる女が、全く腰部を何物でも掩つてをりません、この女だけは全くの洋画でいふ裸婦形式なのです、しかしこの寝てゐる婦人の曲げた両足を区分し、接続してゐるともいふべき、右上の股の一本の線の描き方は、婦人の内部的機構を想像するともいふべきあまり匂ばしい線とはいへなかつたのです、審査員の問題点『研究態度』の重点はこゝにあつたのでせうか、
あの『三人の女』の画面からワイセツ感を得たのは、私たつた一人でせうか、何万といふ観衆が、あの絵から心よい芸術的法悦を受けとつてゐるのに、私一人があの絵からワイセツ感を受けとつてゐるとすれば私が心が奥[#「奥」に「ママ」の注記]しいからでせう、しかしお可笑なことになつてきたのです。
私は文展日本画をいつも二度に分けて観にゆくので、今度も第二回目に十一月三日に観に行きました、そして貴方の問題作『三人の女』の前に立つたとき、私は思はずギクリとしました、私は第一回目にみたとき、漠然と画面の全体的雰囲気としてワイセツ感をうけとつて帰つたのではなく、念入りにみて、一本の線が強すぎた――この線の橋本明治的解釈の誤りが、この絵を害ねてゐるのだと具体的な部分に触れ、充分納得して帰つたのです、ところで二度目の(十一月三日)に行つてみると、そこの部分が胡粉で塗りまくられて消されてあるではありませんか、私でなくても唖然としないではをれないでせう、これ以上長々と書く必要もないでせう、詩人といふものは直感を信じきつてゐるものなのです、詩人とは直感とともに生き、またそれとともに滅びていゝものなのです、文展開会第一日に描かれてゐた股の線が、十一月三日には消されてあるといふ、それに対して、文部当局の答弁も、また貴方自身の答弁がもし『そんなことは知らない、会期中に加筆して消した、そんなことは絶対にない――』といはれても、私にとつてはそれを覆す証拠といふものをもちません、私は最初見たときあつたといふ、私自身の直感を信じて、『いや確かに加筆してゐる――』と自己の確信を述べる以外に手段がありません、
しかし私には満更味方がないとはいへないのです、それはこの公開状の掲載した原稿はをそらく文展開催期間中に発行できるでせう、一本の線があつたか、なかつたか、後から消したかどうかといふことがわかるのは、技術者としての日本画家の諸君あるのみです、第一日招待日に行つた画家で貴方の作品を注意してみた画家があつたら、再度会場に足を運んでみればどつちが正しいか明瞭になる筈です、貴方の作品に手を加へたのは誰でせう、然も会期中に勝手に手を加へていゝものでせうか、審査員の権威といふものはどこにあるのでせう、もし貴方自身が手を加へたとしたら、貴方も長いものに巻かれることを知つてゐますねといひたい、或は貴方も知らないのに、
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