を使つてはいけないといつたら、彼は小児のやうに泣く[#「泣く」は底本では「位く」]だらう、精々単純な技術を、最も有効に使つてゐる。
△中間冊夫氏――男女二人よろし、抱き合つてゐる女二人成功、綜合力があるリアリスト、つまり画面に神経が行きわたつてゐて気持がいゝ。
△菅野圭助氏――色彩よろし、色彩の方向がもつと決つたら形の方向もきめることができる――この注文は謎ではない。[#底本では「。」欠如]
△佐藤英男氏――『丘』作者の意図するところは判るが、重力の法則を無視して、空間に物質を止めようとするやうな空しい努力がある。背景としての空の部分のマチイルを逃げた処にこの作家の弱味がでゝゐる、画面に於ける空間とは、充実せる物質なりである、良い作家だが、追究を最後には逃げる悪い癖がこの作家を伸ばさない。
△大野五郎氏――感傷的な遊でも良いだらう、現実に詩人がゐなかつたら、この程度の詩的なものも認めるだらうが残念である。
△鈴木保徳氏――『島にて』空よろし、他の色甘し、『鶴をうつす人』鶴とそれを写生してゐる人とを描いてゐるが、状態は将に逆だ、鶴にうつされてゐる。
△木村忠氏――『裸婦』よろし、いゝ神経だ、将来の実力発揮のためにいゝ神経を害ねる勿れ。
△土岐流司氏――失題よろし、リアリストとして将来勝てる作家である、自重のこと。
△藤岡一氏――『マンドリン』『花甘藍』と題をつけるのはあまりにシャバ気がある、無題とまで徹底できなかつたら、かうしたコラージュ的な仕事を廃した方がいい。
△清水錬徳氏――気まじめさが足りないが、いゝ画であつた、いゝ加減善心に立ち還つた方が身の為めだらう、あまり画集などに頼らずに自分の個性的な仕事をすること。古い天才主義と別れること。
△井上長三郎氏――『絵画』誰も絵画でないといひもしない先から、何故『絵画』などといふ題をつけたか、それを知つてゐるのは作者自身と斯く批評する私とだけだらう――などといつたら両者結托してゐるやうに誤解し給ふな、大家となると往々題のつけ方が果す役割といふものを知つてゝやることがある、それは良いことではない、この絵の線からピンセットで一本一本不要な線をとつてしまつて、どれだけ必然的な線が残るかといふ仕事を観衆がやつてみたらいゝ、どれだけこの線の走り方、本数に科学的根拠があるかといふことが証明されるだらう、井上氏は一応はリアリストではあるが惜しむらくは科学的ではない。
△清水登之氏――『砂漠』あゝいふ色の黄色な砂漠などは現実にはない、あるものはあゝした色彩の『砂漠』といふ絵が存在するだけだ。
△磯部章三氏――『栄誉』よろし良心態度の前には敵なし。
△斎田武夫氏――『狐』は問題作である、私は主として色彩の触発性の点で、作者の苦心が充分に判る、外光派、印象派の色彩に対する理解が依然と新しさうな面つきをして絵の中に未解決のまゝで引ずりこまれてゐる、画家の多いのに、斎田氏は新しい光りに対する理解を示さうとしてゐることはいゝ、光の触発性に就いての私の意見は次の機会にのべたい。
△水野佳一氏――一応の理屈はもつてゐる、然しその理屈の未来性は決して新時代的なものではない、ケレン性を去れと言ひたい。
△須田国太郎氏――この作家は私は好きであるが、年毎に残念なことには、彼の態度の真面目さの如何に関はらず作者の矛盾ははつきりしてくる、現象主義者の当然陥ちこむ罪に陥ちこみ始めてゐる、観念主義者だけがもてあそぶ手法に二重映像といふものがある。須田氏もまたこゝに行きついた型である。
△浅田欣三氏――『同時的印象』と題して絵はシュルリアリストはこの程度の考へ方や技術をもたなければ問題にはならない、シュルリアリストは少くとも新しい傾向であるといふ意味で聡明でなければならない、その意味で浅田氏は聡明である、この程度の絵になると、私はこの絵だけで二十枚も三十枚も批評をしたくなる、私はこゝで少し理屈を言はして貰へば、浅田氏は印象といふものをどういふ風に理解してゐるかといふことを聞いてみたい、印象とは何か――印象とは人間の諸々の諸感覚のうちの一つの抽象であるといふことははつきりしてゐる、それではかうした抽象的なものに『同時的』とか『同一的』とかいふ命題を与へるといふことは正当であるかどうか、印象そのものの、同時性とは、同時に最も非同時的なものも内容として抱含されてゐなければならないといふこと、他のあらゆるものの差別性を肯定して始めて完全な姿になるといふこと、印象といふ抽象的感覚を二つ複合して辛うじて単一なものを表現するといふ考へ方が隠れてゐたら非常に消極的な画題や意図であると思うへるだらう、浅田氏の描法の一応の正しさは、細密描写の部分も、重要な手法として肯定してゐるといふ点であり、画面の種々の相関関係を見のがすまいとする態度は見受けら
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