これまであまりやりたくなかつた印象批評、直感批評を、この展覧会の人々の作品にやつてみたい、そして勝負をかういふ風に決めたい、即ちかゝる人々の描く、全く現象的な印象的な、わけのわからない仕事も、また何等かの形でその作画過程に、現実的根拠があるのであるから、私の直感批評もまた、私の背後に現実的根拠をもつてゐる、さういふ意味で、この人々が描いた現実的根拠の反映としての、現象としての絵画と、私の印象批評の現実的根拠と、その結果としてどつちが正しいかといふ、勝ち敗けを決めたい、それは誰が決めるのか、それは私が決め、出品者が決められる(或は反対する)といふ以外の一般観衆に決めて貰つた方がいゝ、もつと徹底した言ひ方をすれば、独立展をみにくる観客なるものの、社会的な層が如何なるものであるかといふ吟味から先に決めてかゝらう、若し観客なるものが、役者が役者を観客に招いたやうな結果つまり画家が専門家だけにみせてゐて、大衆が全く見に来てゐなかつたと仮定したらどうなるだらう、私はその意味で、独立展をみに来ない(観客)の意識感情まで代表して、批評したい位に考へてゐる。
現在の現実の反映はなかなか独立展では見事に完全であるつまり社会的現実の矛盾の反映として、実に立派な絵が多いのである――しかし矛盾の反映即ち芸術の価値――とはどつこい問屋でもさうはおろさないのである。民衆の生活は相当に矛盾そのものであつて、現実は複雑そのものである従つて一般民衆はこれ以上に何も芸術家に、現実以上に(心理的に)矛盾を多くして欲しとは思つてはゐないのであるもう沢山なのである、簡潔とか整理とかいふ言葉に、芸術が現実の人間として、その所有してゐる観念に対して、その観念をもつて簡潔にしてくれ整理してくれと大衆から懇願してゐるのである、心理主義者がもつ当然の陥ち入る穴は、形式主義であり、従つてその態度から生れた、芸術上の不真実は、直接に、善悪の問題と関係がある、つまりあゝした絵が多いことが、現実の歪曲であるとすれば悪である、悪は取りのぞかなければならない、批評家がもしファシストであれば、手に刀をもつて一人づつ斬り殺しにでかけなければならない程切実な問題である、然し批評家の武器は、ほんものの剣ではなくて、言葉である、従つてどのやうに激しくても、被批評者は心理的には殺されることがあつても、肉体的に死ぬやうなことがないから安心できるだらう。
△中山巍氏――画面のポーズがもつてゐるセンチメントが色彩のリアリティを減殺してゐる(さて私が言ふ意味がこの作者に判るかどうか疑問である。)[#底本では「)」が欠如]『ギリシャの追想』この作の所謂追想なるものが、彼自身近代人としてか、或は古典人としてかその立場がさつぱり判らない。
△靉光氏――無説明的な説明を加へようとしても無駄だといふこと、物の『現象』とは何かといふ根拠から出発の仕直しをすべきだ(私はこの作者を真個《ほんと》うは好きなのだが、この作者の考へ方が甘く感じられてならない)。
△菊地精二氏――色々色彩の分布的な配列的な絵ではあるが案外色彩の段階といふものを知らない作家。
△森有材氏――『ゴール』色と陰との観念的な分解、運動してゐる人間が、いささか空間的に画面的な充実をしてゐる位がとり得『躍動』よろし、この絵はデティルを看過しなかつたことが、全体を躍動的にうごかし得たといふいゝ見本であらう。
△池田金之助氏――草の色彩青はよし、近代的な色彩としての理解がある、横はる裸婦に色の心理沈澱あり。
△妹尾正彦氏――精々お遊びなさいといひたい処である。
△多賀延夫氏――『鉄屑』苦心してゐて物質性がでゝゐない、物質の原素的なものの見極めを一応つけたら、現実的な色が抽象されてくるだらう、作者の態度は賛成だが。
△宮樫寅平氏――迫力をもつと生かせ、現在の色彩でそれで満足してゐる度胸があるかどうか。
△佐川敏子さん――『砂地』は明日のリアリストとしての出発を約束したいがどうか、然し現在は危かしいリアリストと私は診断したい。
△田中行一氏――グロンメール先生から離れたやうに見えるしかし事実は色彩の上でか、線の上でか、結果離れてはゐない『結髪』で自己のものを築きあげたらいゝと思ふ。
△寺田政明氏――今年は画面の整理で行つた『美しき季節』はよろし、デティルにかゝづりあつてゐたために、綜合的な力を欠いた憾みがある。もつと写実家としての方向転換を望む。
△森堯之氏――どうやらシュルリアリズムらしい絵を描く人に映像をもつと現実化したらよかつた、それは出来ない相談ではない。
△海老原喜之助氏――「市」色の単純化の方法の中に、この画家の心理的段階を容易に発見することができる、色に感覚がないのをリアリズムと履き違ひをしてゐるかのやうだ。
△川口軌外氏――色も形も汚ない、ボカシの方法
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