数は趣味に淫し、色彩に戯むれ、形式に堕したと指摘してゐる。そして創作方法を異常に求めるか、平明に求めるかと出題してゐる。時は流れ、現在に到り、異常派の作家はまことに多いが、何と平明派の作家で寿命のつづいてゐる作家が少いことであらう。大智勝観氏は、その昔からその浪漫的要素を非難され、迫力のとぼしさを残念がられ、その作風の平明なる故に、とかくに見遁され勝である。若し隠然たる勢力といふものが、画家の政治的工作にあるのでなくて、作品の本質にあるものだとすれば、大智氏の画壇的生命力は、その作品の顕れざるところの力量にあると思ふ。
『手に筆硯を親しむの余、時有りて遊戯三昧し、歳月遙永にして頗る幽微を探る、妙悟は多言に在らず善学は還り規矩に従ふ』と王維が述べたが、大智氏の仕事ぶりは歳月遙永であり、四十にしてではなく六十にして不惑であらう。然し沈黙勝の人柄は、却つて妙悟を得、しかも案外の勉強家である点、規矩に従ふといふ方法は、益々その作品の新鮮度を増す理由であらう。
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小倉遊亀論


 画壇でも、文壇でもさうであるが、女流作家は、男の作家に較べて、いくつかの特点[#「点」に「ママ」の注記]をもつといはれてゐる。『女なるが故に?』といふ点のつけられ方の甘さなどもその特点の一つであらうか、この特点は必ずしもその女流作家のための都合のよい特点とはかぎらないこともある。逆に女なるが故に、男子に劣らぬ努力を払つてゐても、その評価に於いて黙殺的な場合も、また少なからずある、考へても見よ、女性作家に甘い点をつけるものは、男達であつて、決して同じ女同志ではないといふことに注意をする必要があらう。
 女同志の批判は決して甘くないばかりか、場合によつては嫉視的なトゲをさへ加へてゐることがあるので、結局女なるが故にといふ甘い点をつけるものは、男許りであるといふことに到達する。わが小倉遊亀氏は幸なことには、さうした女流作家の特点といふものに決して恵まれてゐる作家だとはいへないやうだ。彼女は特に男達から甘い点をつけられることもなく、彼女自身も、またその女の特点を、善用も悪用もしなかつたやうである。
 それを証拠だてるものとしては、作家に雌伏時代といふものがあるとすれば、彼女の雌伏時代は決して短かい期間ではなかつたことを想つてみたらいゝ、小倉氏がそれでは優れた作品を描かなかつたのであらうか、否、決してさうではない。それは氏の仕事のすべての状態が、氏の作品を理解する条件に恵まれてゐなかつただけのことである。
 この辺で筆者が小倉遊亀論をやるといふことは、甚だもつて興味の深い時期にぶつかつたといふことができよう。しかも現在小倉論をやるといふことは非常に困難な状態に際会してゐる。それは頭で[#「で」に「ママ」の注記]なしに批評したり、賞めてをくことに間違なくていふ批評をするのであつたら、さうした困難さが伴はないのである。さうした場合ではなく、小倉氏の現在を一つの転換期としてみるといふ場合には、勢ひその批評もデリケートにならざるを得ないではないか――、小倉遊亀氏が何故に評判の作家であるかといふことに就いては、各人各様の見方があるであらう、しかしその各種の批評を貫ぬいて、小倉氏自身の実力的なものが如何なるものであるかといふ吟味は案外に行はれてゐない。
 しかし最近に於いては、これまで女なるが故にも甘やかされてゐなかつた小倉氏が、こゝへ来て、女なるが故に――甘やかされるといふ現象がボツボツと見えてきたといふことは、注目すべき珍現象であらう。『遊亀氏の作品には何ともいへない品のよいデリカシーがある。そしてそれは到底男の作家では及び得ないやうなものだ――』といつた批評も見えてゐる。小倉氏の作品には全くデリカシーがありそれが気品を伴つてゐる。しかしこの批評家のやうに、男の作家では及び得ないやうなものだ――などといふ批評は、矢張り『女なるが故に――』甘やかされた批評の一種と見るべきであらう。芸術的な創作物は、あくまでその評価を具体的な状態で解明していかなければならないものであつて、男であるからとか、女であるからとかいふ『性別』の問題を表面にとりあげるといふ法はないのである。女性作家にとつては、その種の女なるが故にといふ批評の内容的なものを想ひ、抗議的であつていゝ位である。また批評家としても、男の作家では出来ないやうな仕事を小倉女史が為し遂げたといふ批評の仕方は、女の作家を軽蔑したことにも、男の作家を卑屈にみたことにもなるのである。芸術作品に対するお世辞の使ひ方も、性別を加へたお世辞であれば、鼻もちのならない卑しいものに堕することも少くないであらう。
 小倉遊亀氏の人気の基本的な線は、決して最近の現象ばかりをもつてそれを論じられない。しかも
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