呉れる怪しい家だけであつた。
彼は発明品への投資者を求めながら、己れの才能に反する万引や窃盗をして歩るくのであつた。
暗黒中のインテリゲンチャ虫の趨光性に就いて
暗黒中の『下等動物の趨光性学説に就いて』といふ興味ある林泉太郎博士の研究発表の講演は終つた。
人々は講堂から控室へ通ずる細長い廊下へでた。廊下はさして暗いとはいへないが、しかし三時間もの長い講演の疲れと、学的興味で人々の頭はいつぱいになつてゐたし、また講演の性質上、廊下の暗さが人々を運命的な感傷にとらへたのであつた。
当日の講演が如何に感動的であつたかといふことは、聴講の学者達がうす暗い廊下を満足に前進することができない程、興奮してゐることでもわかるのであつた。
吉本博士は、たえず人さし指で廊下の壁にふれ、頭を垂れて、非常にゆつくり歩き、そしてじつと立止つて思索にふけつてゐる時間の方が長かつた。潮博士はふかく腕を組み、軽く靴を鳴らして、三歩前進しては、体をくるりと一廻転するのであつた。
人々がみな去つてしまひ、がらんとした講堂の中に、野村長命博士が腑抜けのやうに、前方の黒板に、講演者がチョークで書きのこして
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