非常に待ち遠しい長い時間であつた、まもなく新聞配達が、玄関の戸のすきまから新聞を差入れる、カサ/\といふ音がしたと思ふと、殆んどその紙の音と同時に、犬小屋の中で寝藁の騒ぐやうな音がした、プーリがごそごそと小屋の中から現れた、博士は呼吸を凝らしながら、プーリの動作を見逃すまいとして、穴からのぞいてゐた。
 犬は高慢さうな顔を高くあげて、周囲をひとわたり眺めまはした、それから片足で新聞を軽く押へ、片足でちよい、ちよいとさはることで、新聞の小さな畳みは、わけもなく大きく拡げられた。
 次は、犬にとつても困難な仕事らしかつた、犬は第一面の広告欄をちらりと一瞥したきりで、その第一面の紙の端に口を近よせ、まるで長いことまるで接吻をしてゐるやうな姿でゐた、するとぱらりと大きく頁が開かれるのであつた。
 犬は強く空気を口で吸ふことで、一頁一頁開くことをやつてゐるのだ、――と博士は観察を下した、プーリは第三面の政治欄は、殊に熱中的に熟読してゐた、何かの仕事を読んで感動したときだらう、片足をもちあげて頭をぼりぼりと引掻いた、すると頭から脱気[#「脱気」に「ママ」の注記]が新聞の上にばらばらと落ちるのであつ
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